B君の思い出
B君は学校がどうも苦手で、塾が大好きな少年でした。国語と理科が不得手で算数と社会が得意な子だったと記憶しています。子どもを文系、理系で分けてしまいがちですが、国語と理科が得意または不得意、算数と社会が得意または不得意という生徒も意外に多い組み合わせです。
6年生の秋、修学旅行が間近に迫ってきたある日、お母様から「息子がどうしても修学旅行に行きたくないと言ってきかないんです。両親は働いているので、昼間の間塾の空き教室をお借り出来ないでしょうか。」というご相談がありました。学校の公式行事、しかも修学旅行を休んでまで塾でお預かりするのはいかがなものかと思いました。しかし、母親のみならず、本人からも切実な懇願があり、担当教師とも協議の上、お受けすることと致しました。学校には保護者の方から病気で修学旅行には行けなくなりました、と連絡した形でした。
B君は開成中を受験しましたが、残念ながら合格出来ませんでした。しかし3日の第二志望校の海城中に合格し、ほぼ学内40番以内を確保出来るようになり、大学受験では見事東京大学に合格しました。学部は理系で法学部ではなかったのですが、一念発起し、司法試験を受験し見事合格を果たしました。今は弁護士として活躍しています。報告かたがた会った時に「国語が苦手だったのに良く合格出来たよなあ」と声をかけると「先生の指導のおかげです」などと言っていましたが、もちろんそんなわけはありません。「実は宿題が終わらなくて時々答えを写していたときもありました。すみませんでした。」などというカミングアウトもありましたが、すてきな笑い話になりました。小学校の塾に通っていた時が一番楽しかった、とも言っていました。
いじめや体罰による痛ましい事件が後をたちません。学校はもちろんとても大切な場所です。クラブ活動ももちろん大事でしょう。でも、命を落としてまで通うところでは、続けるものではけっしてない。また、そんな場所であってはならないはずです。修学旅行に行かなかったB君も、今は人の心の痛みのわかる頼りがいのある弁護士として立派に活躍しています。B君が小学生のとき、ご両親も私たち教師も、彼が将来弁護士になるとはまったく予想も出来ませんでした。でも、生徒一人ひとりに素晴らしい未来が待っていると信じ、その子の可能性を信じ、その子の成長の少しでも役に立てるように接するのが私たち教師の務めであり、使命であると信じます。
B君は中学入試ではその時の第一志望校合格は果たせませんでしたが、結果的にはB君をもっとも成長させてくれる中学校に出会え、進学することが出来たのだと思います。
埼玉県の中学入試がいよいよ始まりました。すべての受験生が、自分をもっとも成長させてくれる中学校と出会えますように。
きっと きっと 春は来る
そう信じて! そう祈って!