試験時間40分 満点100点
随筆文1題10問 説明文1題15問
大問1 随筆文 出典は増田れい子『インク壺』所収「色鉛筆」から。
筆者である「私」が小学校三年か四年だったころ、母が所用で東京に出かけるたびに学用品をねだりました。ある時、東京から帰った母がくれたものは十二色の色鉛筆。ブリキの薄型の箱に収まった十二色の色鉛筆は、神々しいまでに美しく、私の机に虹が立ったように感じられました。私より少し年下の女友だちも色鉛筆にまつわる話をしてくれました。その友だちは学童疎開で家を離れる前日にオルガンの先生からスイス製の色鉛筆をもらいました。しかし、学用品も自由に変えない時代であり、疎開先ではなんでも共用、助けあおうと自分たちの持ち物を供出し、分け合って使うことになりました。しかし、友だちはオルガンの先生からいただいた色鉛筆をどうしても出すことができません。それ以降、彼女は約束を守らなかった、裏切り者という恥の記憶が消えがたくしみついたのでした。戦後三十七年目の夏、私の机の上にあるのは色鉛筆。ゆたかになって誰も色鉛筆を宝と思わなくなったが、私にはやはり虹であり宝の一つ。この虹を再び失いたくない思いはだれよりも強くある戦中派の心模様なのでした。
問9では 、色鉛筆は「私」にとってどのようなものか、「虹」という言葉に注目して答えます。問10では「戦中派の心模様である」と筆者の心模様を記号で選びます。
戦中派とは、戦争中に育った人々のことです。「私」が母親からもらった十二色の色鉛筆は、神々しいまでに美しいものでした。戦後三十七年をへて、豊かになった今でも、色鉛筆は気持ちを浮き立たせてくれる特別なものであったのですね。また、戦時中、大切なものだからと友達がかくし通した色鉛筆は、虹のようにはかなく消えてしまいました。好きなものを手元で大切にできる平和な世の中であり続けてほしいと願っています。
大問2 説明文 出典は中川裕『アイヌ語をフィールドワークする』から。
アイヌ文化の「カムイ」について、水に対する見方も面白いです。夜、水をくむ時の呪文としてこんな言葉があります。「水よ起きてください。水のお着物をいただきにまいりましたよ。」 呪文を唱えながら水をくむことで、すべてのものに精神の働きを見るという気持ちがあったのです。汚い水はカムイにとっても汚いので、川で洗濯をしません。樽(たる)で洗濯します。汚れた水はどうしたのかというと、『これから水を捨てるから、カムイにそこをどいてください』というのです。また、身の回りのあらゆるものに人間と同じ感情を見出すという発想があります。農器具や自転車にもお供え餅(もち)をのせていました。自然物だけでなく( D )物であっても、敬意を払っていたのです。この世を動かしているすべてのものに人間と同じ精神の働きを認め、それらが人間と同じルールにしたがって、人間とともにひとつの共同社会を形成しているという思想にもとづいたアイヌ文化。現代の都会生活の中でも、カムイという観念やアイヌの伝統的な精神に即した生活をするのは不可能ではないはず、と筆者は論じます。
問7では( D )にあてはまる漢字二字の熟語を考えて答えます。問11では「ものがものとしてとらえられなくなってきた」現代人はどのような行動をとるか10字程度で答えます。問12では、「カムイの観念」とはどういう考え方か説明します。
問14 ( )にあてはまる言葉をそれぞれひらがなで答えます。
1 じゃまをする → 水を( )
2 なかったことにする → 水に( )
カムイはありとあらゆるものに宿っていることから、自然だけではなく、農器具や自転車などの「人工物」にもカムイは存在することになります。しかし現代では物質的な生活が豊かになることによって、ものの精神性が失われ、ものがものとしてしかとらえられなくなってしまいました。これでは人はものを粗末にするような行動をとってしまうでしょう。アイヌ文化、カムイという観念を見つめることによって、人間が本来もっている精神に立ち戻る。現代に生きる私たちができることは、まだまだあるはずです。
女子学院中は過去にも自然と人間をテーマにした説明文が多数出題されています。また、語句問題も出題されます。素早く解けるよう、ふだんから言葉を増やしていきましょう。(佐藤)