公園や街路樹としてよく見かけるクスノキ(クスノキ科)という常緑広葉樹がいます。渋谷の交差点そばにも立っていますが、このクスノキの葉の裏にはダニを飼うためのダニ室という穴が存在しています。
葉の裏の葉脈の付け根にポツポツとふくらんだ小さなイボのようなもの。これがダニ室(ドマティア)です。顕微鏡や虫メガネでのぞくと小さな穴が開いており、中が空洞のポケットのようになっています。ダニ室に住むのはカブリダニなどの「肉食のダニ」です。
クスノキには、フシダニという葉の汁を吸って葉を枯らしてしまう「草食のダニ」や、葉の表面に生えて葉をおおい光合成を阻害する原因となる「カビ」などの天敵が存在しています。これらの外敵を肉食のダニたちは食べてくれるのです。
もちろん肉食のダニにも天敵はいます。カメムシやクモには肉食のダニも勝てません。彼らから身を隠すとき、雨や風から身を守るとき、そして卵を産むときにダニ室を使います。特に産卵の場としてダニ室は重要で、大人のダニが1~2個の卵を部屋に産み、卵からかえった幼虫は安全な部屋の中で少し育ってから外の世界にパトロールに行きます。
そして面白いことにこのカブリダニの大きさとダニ室の広さは一致しており、ちょうど1匹のカブリダニしか入ることができません。複数の肉食のダニが1つの部屋に入ってしまったら、餌不足になったときに共食いする恐れがあるため、ちょうど1匹が入れる部屋の方が都合がよいのです。
よって、クスノキと肉食のダニは完全な相利共生の関係にあり、お互いがお互いを助け合って生きています。
また、カブリダニは昼の長さが短くなると冬が近づいてきたことを察知し、葉から一気に木の幹の隙間や木の幹のコケに移動をし、休眠の準備を始めます。すると葉のダニ室が空くため、そこに今まで入ることができなかった草食のダニがぎっしり入り、寒さから身を守るようになります。しかし実はそれはクスノキの仕掛けた壮大な罠であったりするのです。春が近づくと草食のダニがぎっしり入ったダニ室の入り口が閉じ、草食のダニを閉じ込めます。
クスノキは常緑広葉樹でありながら、春に古い葉が落葉し、一気に新しい葉に入れ替わります。つまり草食のダニを閉じ込めた古い葉ごと処分をするのです。新しくなった葉のダニ室には木の幹のすきまから戻ってきたカブリダニがまた入ります。
春~秋はダニ室に住む肉食のダニに草食のダニの駆除をお願いし、秋~春は罠を仕掛けて草食のダニを駆除する。カブリダニの行動もですが自然界って本当によくできていますね。
ちなみにこのようなダニ室をもつ樹木はクスノキだけではなく様々存在します。ブナ科の高木の中にもダニと共生している仲間は数多くいます。ただ、ブナ科の植物であるブナやクヌギの場合、葉の葉脈の付け根に「毛そう」という毛の束を作ります。この毛の隙間がガードマンである肉食のダニにとっての駐在所として使われているのです。
ダニ室ではないですが、肉食のダニや草食のダニに関連する問題や生物農薬については過去に女子学院中で出題されています。