毎年、1月の最初の授業では、「明けましておめでとう」「今年もよろしく」といった、新年を祝う言葉があちこちで聞かれます。皆さんも既に、塾の友達や先生たちと新年の挨拶を交わしたことと思います。では、遠方に住む親戚や友達など、直接会うことが難しい相手だったらどうでしょうか?
以前は、新年の挨拶がわりとして年賀状のやりとりをすることが一般的でした。皆さんのお父さん・お母さんの世代やそれより上の世代では、親戚や友達に加えて仕事で関わりのある人に出すことも多く、枚数が数百枚にのぼることも珍しくありませんでした。しかし近年は、かつてほど年賀状のやりとりはさかんではなくなり、昨今では「年賀状じまい」という言葉をよく耳にするようになりました。
「年賀状じまい」とは、その名の通り年賀状のやりとりをやめることで、やめる前の年の年賀状の文面にその旨を記して相手に伝えるケースが多いようです。背景には、メールやLINE、SNSでのやりとりが一般的になったことに加え、高齢化が進み、はがきの手配や投函が難しい人が増えたことが挙げられるでしょう。また、個人情報保護の意識の高まりから、親しい相手であっても住所を聞くのを控えるようになり、そもそも宛先がわからないので書きたくても書けない、というケースも多そうです。こうしたことから年賀はがきの発行枚数(当初発行枚数)は減り続け、2025年用は約10億7000万枚にとどまりました。最大枚数を記録した2004年用が約44億6000万枚なので、20年で4分の1以下に減ったことになります。
このように徐々に存在感が薄れつつある年賀状ですが、今から76年前、今とは逆に年賀状のやりとりを促す取り組みがスタートしました。それが「お年玉つき年賀はがき」です。年賀状はがきの表面をよく見ると、6けたの番号が「お年玉くじ」として印刷されていることに気付くでしょうか。1月中旬頃に抽選が行われ、当選番号のはがきと引き換えにさまざまな景品が受け取れるという仕組みになっています。第1回にあたる1950年用(1949年12月発行)の景品と、もうすぐ当選番号が発表される2025年用の景品を比較してみましょう。
1950年用
特等:ミシン
1等:純毛洋服地
2等:学童用グローブ
3等:学童用こうもり傘
2025年用
1等:選べる電子マネーギフト
または現金30万円、または2024年発行特殊切手集と現金20万円
2等:ふるさと小包など(各地の特産品から選べる)
3等:お年玉切手シート
特別賞:大阪・関西万博ペアチケット(対象の寄付金付はがきのみ)
いかがでしょうか。1950年といえば第一次ベビーブーム直後ですから、それだけ子ども向けの商品には需要があったということでしょう。また、衣服を家庭で作ることが珍しくなかった時代、ミシンは裁縫の労力を大幅に軽減してくれる、憧れの商品でした。この後も、電気洗濯機やカラーテレビなど、日本の経済成長に合わせ、当時の最先端を行く商品が特等に選ばれてきました。2010年代からはこうした品物ではなく、現金が上位の賞を占めるようになりましたが、現金か電子マネーかを選べるようになったところが、キャッシュレス化の波を感じさせます。
この「お年玉つき年賀はがき」はある民間人の提案によって生まれました。年賀状自体は戦前から存在していましたが、戦争中に物資不足などから一時廃止され、その後も戦後の混乱の中、お互いの居場所や様子がわからないままになっている人も多くいる時代でした。そこで、年賀状にお年玉や寄付金をつけることで購買欲を促し、年賀状の習慣を復活させれば、お互いの様子を知るきっかけになるとともに社会の復興につながる、という考えから、「お年玉つき年賀はがき」が誕生したと言われています。
離れたところにいたり、なかなか会う機会がない知人だからこそ、「あなたのことを忘れていませんよ」「これからも変わらず仲良くしていきたい」という気持ちを伝えたいものです。人びとがそう思っている限り,たとえ時代とともに形が変わっても、新年の挨拶は続けられていくのかもしれません。