気象庁の観測をもとに、各地の気温や降水量などについて示される「平年値」というものがあります。
たとえば天気予報で、「今日の東京の最高気温は平年に比べて8度高く、7月上旬並みの暖かさとなる見込みです」といった場合の「平年に比べて」や「7月上旬並み」の比較対象となっているのが、平年値です。
この平年値は、西暦年の一の位が「1」の年から続く30年間の平均なので、これまでは1981~2010年の観測値による平年値を使用していましたが、3月24日の報道発表により「令和3年5月19日から、1991~2020年の観測値による新しい平年値を使用する」ことが発表されたのです。
新しい平年値は、以前のものと比べると次のような特徴があります。
①年平均気温の新平年値は、旧平年値よりも全国的に0.1~0.5℃上昇
日本の平均気温は、温室効果ガスの増加にともなう地球温暖化の影響によって長期的に上昇しています。また、数十年周期の自然変動の影響もあり、宇都宮市や水戸市では+0.5℃、東京都心や名古屋市・仙台市などで+0.4℃上昇しています。気象庁の発表によると、上記の要因のほかに、観測地点の周辺環境が都市化によって大きく変化したことも影響していると考えられます。
②降水量は、多くの地点で季節によっては10%ほど増加
毎年のように繰り返される豪雨災害を反映して、夏の西日本や、秋・冬の太平洋側の多くの地点で10%前後多くなっています。一方、春の西日本や夏の東日本太平洋側では5%程度少なくなっています。
③降雪量は多くの地点で減少
降水量は増加している地点が多いものの、気温が上昇しているので、降水があっても雪ではなく雨として降りやすくなったと考えられます。そのため降雪量の新平年値は、旧平年値と比べて多くの地点で少なくなっていて、新潟・金沢・富山・鳥取などの日本海側の地点では40~50%近く減少するところもあります。なお、積雪を観測する機器が超音波式からレーザー式に変わったことにより、雪面の凹凸や風による揺らぎの影響を受けにくくなったことも影響しているそうです。
④さくらの開花日は、ほとんどの地点で1~2日早くなる
平均気温の上昇によって、さくらの開花日も早まります。東京でも、これまでの平年値は3月26日でしたが、新平年値では3月24日となり、2日早まることになります。
⑤台風の発生数や接近数・上陸数、梅雨入りと梅雨明けの時期は大きな変化なし
では、実際にグラフやデータを確認しておきましょう。




各地点について、新旧2つのグラフを比較してみてください。どの地点も全体的な印象にはさほど変化がありませんが、たとえば、札幌で最も降水量が少ない月は6月から4月に変わっていたり、那覇の6月・7月の降水量が大きく増えていたりと、細かく見ると変化している部分があります。
ちなみに、同様に平年値の更新が行われた直後の2012年度入試問題を紐解いてみると、更新されたデータを用いている学校もあれば、それ以前の平年値を用いている学校も見られます。上記のグラフでも確認したように、出題に大きな影響を与えたり、受験生が混乱したりする劇的な変化があるわけではないので、何か特別な対策をとりましょう、ということではありません。
ただ、こうしたデータの更新が行われたことや、全体の傾向が変化していることについて、地球温暖化や都市化と関連付けながら理解しておくことは大いに勉強になると思いますので、紹介しました。
■参照資料
気象庁|報道発表資料(令和3年3月24日発表「平年値の更新について」)