社会科よもやま話 その21 御三家入試問題より

2019/9/25

エクタス社会桜蔭中

桜蔭中学校の2019年度入試にこんな問題がありました。
文章には
「江戸時代になると関所は幕府の管理下に置かれ,関所は室町時代とは違う役割を担うことになりました。」と書かれています。
設問は,「江戸時代の関所の役割を答えなさい。」

解答欄の大きさから考えると簡潔に答えるぐらいの記述です。ただ,「文章で答えること」と条件がついています。これが逆にヒントになるわけですね。つまり「入鉄砲に出女」だけではだめですよという意味でしょう。
答えは公表されていませんが「江戸へ武器が持ち込まれることや,大名の妻子が江戸から逃亡するのを防ぐこと。」と答えておけば大丈夫でしょう。

さて,ここではこの問題の解説を書き連ねるのではなく,いつもの通りこの問題をネタに寄り道していきます。
江戸に近い関所といえば箱根の関所が有名です。ここでは特に江戸から出てくる女性については厳しく取り調べられたようです。まさに「出女」対策です。
もうひとつの理由である江戸への武器流入を防ぐことですが,江戸を防衛するために武器だけでなく反乱軍も途中で足止めをしなければなりません。その一例として昔からよくあげられていたのが「大井川にはわざと橋をかけない」ということ。かつての受験生にとってはこれは当たり前のように覚えられていましたが,現在では少々事情が違っています。

「箱根八里は馬でも越すが越すに越されぬ大井川」という唄があります。
江戸時代,大井川を渡るためには川越を助けてくれる川越人足と呼ばれる人たちに,肩車をしてもらうか,4人でかつぐ蓮台というはしごのようなものに乗せてもらい渡るしかありませんでした。もちろん有料です。
当時の技術では橋を架けることは簡単ではありませんでした。でも,舟で渡ることは出来たはずです。にもかかわらず,橋もなし,舟もなしにした訳は軍事的な目的ではなかったようです。
実際に幕府に対して渡し舟を認めてほしいという請願は何度も出されました。しかし,幕府はそれには答えませんでした。江戸時代の初めのころ,この大井川の川越人足は1000人ぐらいいたそうです。この人足たちが幕府へ橋を架けること,渡し舟を使うことに反対する請願を出していたのです。この1000人もの人足たちの意見を,幕府は認めることにしました。幕府は最初に彼らの独占的な業務を認めていたこともあるでしょうし,それによって幕府にも何らかの利益がもたらされたのかもしれません。
江戸時代も後期になると橋をかける技術は発達してきたでしょう。でも,橋は架けられませんでした。幕末,官軍が江戸に攻め込むときには,あっというまに大井川に橋を架けてしまうことからもそれがわかります。あくまで幕府は川越人足の利益を守ったということになります。

さて,明治になると,新政府は簡単に川越の制度を廃止してしまいます。橋を架け,渡し舟をも認めたのです。すると,1000人もの人足やその家族はたちまち生活が出来なくなってしまいました。
新政府は,職を失った士族の救済に,未開拓地の開墾を奨励します。北海道の開拓へ向かった元武士たちが屯田兵となって開拓したことは有名です。
これらの開墾の先陣を切ったのが牧ノ原台地の開拓でした。なんと!仕事を失った大井川の人足たちは,近くにある牧の原台地の開拓のために入植してきます。慣れない仕事で相当な苦労もあったようです。今日牧ノ原の茶畑が全国一となっているのも,こうした人びとの苦労があったからなんですね。因みに,15代将軍徳川慶喜が駿府へ隠居した際に連れてきた家臣たちも,版籍奉還により失職し,この牧ノ原の開拓に加わっています。

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