2024年度の中学入試算数の中から、今回は開成中の入試について取り上げます。
開成中の入試は基本的なことがらを新しい視点で取り扱う、非常に面白くそして学びになる入試問題が多いことでも有名です(算数以外にも話題になった問題がたくさんありますので興味がある方は調べてみましょう)。受験生向けには過去問キラーなどと言われることもありますね。
本年は大問1に1桁の異なる数を用いて四則計算を行い、答えが2024になる式を作成する問題が出題されて話題になりました。この問題は既に解いた皆さんも多いのではないでしょうか。ただ式を作るだけでなく、その式に使う数字の個数が少ない方がより高得点になる…といった条件が付記されていたこともとてもユニークでした。
今回のブログでは別の問題を取り上げてみます。大問3に出題された立体の切断の問題です。立体の切断は中学入試算数の中では高難度の問題が出題されやすく、最難関中学の入試では毎年の様にいろいろと出題されています。渋谷幕張や豊島岡(関西では灘も)ではほぼ確実に出題されるのでたくさんの練習を重ねている受験生も多いのではないでしょうか。もちろん開成でも、様々な形で何度も取り扱われています。2024年入試ではその中でも直方体を複数回切断するという難度の高い問題が出題されました。ただ、その出題形式がさすが開成!と言わせるものでした。
良く見かける出題であれば切断そのものが具体的に指示されており、その結果できる立体についての求積などを行うことが一般的でしょう。ところが、今回の開成の入試では、直方体を3回切断した結果できる立体のうち、その1つの展開図が示される形で出題されました。この状況から、どの様な切断をしたのかを考察していく…という通常とは逆の流れのため、多くの受験生が面食らったことが予想されます。
この問題は難度が高いことは事実ですが、決して悪問ではありません。重箱の隅をつつくような知識が必要なわけでもなく、特殊なテクニックが必要でもないのです。難所こそ多いですが、切断の原理を正しく理解しており、そのルールに従って一歩ずつ紐解いていくことで確実に前進し正解にたどり着くことができるとても誠実な問題です。
学校側が求めているのは、「見たことのある問題と似た問題を解ける様になること」という小手先の能力ではなく、「物事の本質を正しく理解しているかどうか」として、「与えられた情報をもとにその本質から試行錯誤して考え、正しい判断と処理を行い正しい結論にたどり着けるかどうか」という本当の学力なのです。そういった意味では大問1の計算と共通する意思のもとで作成された問題であることが良くわかります。東大の数学入試で教科書に書かれている定義が出題されていることにも通じているのです。
※文部科学省はそのことを「生きる力」と呼んでいます。
そういう意味でこのような「正当な厳しさを持った難問」は今後も筑駒、御三家、駒東中の出題では大きなウエイトを占めることが予想されます。
受験生の皆さんにとっては、入試まで3か月を切り合格に向けて日々の学習に焦りも出てくる時期かとは思います。模擬試験や過去問の結果に振り回されることなく、今一度学習の本質を思い出す機会として欲しいです。また、未来の受験生にとっては「物事の本質を正しく理解すること」を常に強く意識して欲しいですし、我々指導者もその本質を忘れない様にしたいと考えます。お互いにがんばりましょう!