2020年、開成中国語入試問題から。
小6男子・女子をめぐる人間模様。合奏会でアコーディオン担当の4人。強引で自尊心の強い、リーダー格の「カナ」。いつもカナにひっぱられがちの「めぐ美」。カナが好意を打ち明けた「小磯」は、「まやまや」に告白。しかし、カナは、まやまやに妙な気遣い。
カナの思いとは…
小磯から告白されたまやまやを攻撃すると、自分が小磯のことを好きだったことや、失恋の腹いせに攻撃していることが周りに知られるかもしれないため、それを避けたかったからか?または、まやまやに負けたとは認めがたく、小磯をばかにして、小磯への告白を冗談でからかってしたことだと感じさせることで、自分の自尊心を守りたかったからか?
(朝比奈あすか『君たちは今が世界(すべて)』による)
小学6年生の男女どうしで、複雑な人間模様が展開されます。上記を通読された読者のみなさんも、一度では十分にあらすじをつかみきれないのではないでしょうか?(お時間があれば、お手持ちの用紙などに人物相関図を書いて、ご検討ください。)
異性へのほのかな好意を語りつつ、ここに通底する感情は、本来の恋愛意識に成熟する以前の何者かではないでしょうか?もちろん、本人たちは真剣ですから、その思いや交わりを過小に評価することは、厳に慎むべきでしょう。
皆の心の奥に無意識のうちに貼り付いているのは、むしろ、他者や周囲からの無言の圧力に対する恐れの念や、忖度感情といったものに近いのではないかと察します。「嫌われたくない、仲間はずれにされたくない」という行動原理を前提にみていくと、物語の中の多くの振る舞いが、驚くほどすっきりと説明できるように思えるのです。
これは、決して否定されるべきことではありませんね。自分と異なる他者を慮る習慣は、社会性の第一歩でもあり、日本的な美徳とも言えましょうか。ここで苦心を重ねた人は、頑迷な自意識で突っ走ってきた人などに比べ、将来、はるかに芳醇で豊かな人間性を身につけられるのではないかと思えます。 “他者への気遣い”を栄養にしてこそ、“真の自分らしさ”を形成しうる……大切なことに気づかせてくれた、今年の開成中の出題でした。