2020年7月、インド洋にある島国モーリシャスの沖で、日本の会社が所有する大型貨物船が座礁(浅瀬などに乗り上げて行動ができなくなること)して、8月に燃料油1000トンが流出する事故が発生しました。燃料油とは燃焼によってエネルギー源として使用されるもので、ガソリンや灯油、軽油がこれにあたります。これらは私たちが生活するためには欠かせないものです。しかし、海洋に流出すると様々な問題になります。例えば、生活していた生物への悪影響です。
モーリシャスの海には世界屈指のサンゴ礁があり、いろいろな生物が多く生活しているということで「生物多様性のホットスポット」の1つに挙げられています。サンゴ礁は海の熱帯雨林と呼ばれ、非常にたくさんの生物種のすみかになっています。海にくらす魚の25%ほどが健康なサンゴ礁に頼って生きているそうです。そんな中で油流出が起こると、水面下でムース状の層ができ、海底には残留物がたまり、物理的に窒息状態になり海洋生態系の非常に深刻な影響を及ぼすことになります。
そこで現地では、オイルフェンスを使って油の拡散防止を行っています。そのオイルフェンスには、「かみ」が使用されています。「かみ」とは何でしょうか?「紙」ではなく「髪」なんです。髪の毛の表面にはメチルエイコサン酸という物質が存在していて、これが油と吸着しやすい性質があるそうです。揚げ物など油を使った料理をすると髪の毛に油のにおいが残るのはこの物質が原因です。ですから、モーリシャスの海を守るために、人々はお互いの髪の毛を切り合ったりしているそうです。また、使用後のプラスチックよりも髪の毛の方が分解速度がはるかに速いため、廃棄処理も行いやすい点も髪の毛を使う理由の1つになっています。
さらに、髪の毛は自然と生えてくるものなので余計な廃棄物を増やさないというのも理由に挙げられます。これは、国連サミットで「持続可能な世界を人類が創る」という目的で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の点からも非常に重要です。最近ではこの一環としてレジ袋が有料化になりましたね。
中学受験、特に最難関中の中学受験ではこうしたニュースから出題されることもしばしばあります。これは、勉強ができる子も大事だが、身の回りにあることに関心を持っている子が欲しいという中学校からの隠れたメッセージかもしれません。なので、テキストだけで学習するのではなく、周囲のことにも目を向けることがとても大切です。