梅雨が明け、本格的な暑さとなり、受験生のみなさんにとっては天王山とも言える夏期講習がいよいよ始まりました。受験生のみなさんは朝早くから夜遅くまで必死に勉学に励んでいることでしょう。
さて、本年度の開成中の大問3では、人体の消化に関する問題が出題されました。この大問3の本文の中に大変面白い内容が書かれています。
16世紀までは、小腸で吸収された栄養が、肝臓で血液に変えられ、血液を心臓が全身に送り出し、体の各部に運ばれた血液は、体の各部で使われて、なくなってしまうと考えられていました。しかし、17世紀には、心臓から送り出された血液は、体をめぐり、また心臓にもどってくると考えられるようになりました。
心臓から出た血液は全身をめぐり再び心臓に戻ってきます。このような「血液循環」の考え方が確立されたのは、なんと1628年のことです。何とそれまでは、心臓から出た血液は体の各部分で使われて消えてしまい、再び心臓に戻ることはない、とされていたのです。
この「循環しない」血液の考え方は、ローマ時代のギリシアの医師ガレノスの考え方を前提として信じられてきたことです。このガレノスの考え方は、口から食べた食物が消化され、小腸で吸収されたあと肝臓に運ばれます。そして吸収された養分が肝臓で血液に変えられ、全身、各器官へと運ばれます。そして全身、各器官で生命活動に使用され、そのまま消滅する・・・というものでした。この循環しない血液の流れは「栄養配分系」と呼ばれていました。その後、現在で言う動脈血を全身に運ぶ「通気系」という循環しない血液の流れもあるとされ、「栄養配分系」と「通気系」の2つの循環しない血液の流れが存在する、と17世紀の初頭までは信じられてきました。今で言う「動脈」や「静脈」の概念はありませんでした。
16世紀初頭、イギリス人のウイリアム・ハーベーは血液は肝臓でつくられているのではなく、血液の系統は1つで、血液は循環しているという仮説を立て、自分の腕を縛って血液の流れを確認したり、解剖学者の力を借りたりしい、1628年に「血液循環説」を発表しました。が、当時この説は激しい論争の的となりました。さらにハーベーは1649年に自分の説が正しいという説をまとめた冊子を発行しました。この時期から彼の考えが正しいということが実験、検証され、「血液循環説」は多くの人々に受け入れられ、後の心臓や血圧の正しい理解へとつながりました。ハーベーの勇気と努力が正しい考え方を生み出し、後の医学の発展へとつながったのです。
同じような論争が様々な学問で繰り広げられてきました。新しい考えが古い考えが信じ込まれていることでなかなか受け入れられず、議論を重ね、でも批判され。それでも自分の考えが正しいと信じた科学者たちが屈することなく、実験、検証を繰り返し、正しいものとして確立され、新たな正しい考えが世に伝わっていく、ということを繰り返してきました。
今のみなさんの生活があるのは、こうした科学者たちの努力の証であると言えます。
伝えたいことは2つです。
習ったこと、学習したことをただただ詰め込んでいくのではなく、なぜそうなるのかをきちんと理解しながら身に付けていきましょう。そしてもちろん、「なぜ?」のままにせず、わからないこと、納得がいかないことは自分で調べたり、先生に質問をしたりしながら一つずつ解決していきましょう。そうする中で、もしかすると新たな発見があるかもしれません。次に新たな学説を唱えるのはみなさんかもしれませんよ。
もう一つは、自分が今取り組んでいる学習が本当に正しいかどうかを考えて見て下さい。
誘惑に負けていませんか?
集中して取り組んでいますか?
やるだけになっていませんか?
苦手なこと、嫌なことにきちんと立ち向かっていますか?
天王山である夏期講習を終え、9月に入り夏期講習の自分の姿を振り返ったときに、
「受験生として本当に正しい学習を終えた受験生」
正しく学習をした受験生になれるよう、暑さに負けず努力を重ねて下さい。
頑張れ!受験生!