6月になりました。今年は新型コロナウイルスの流行と、それに伴う外出自粛が長く続いたので、時間の流れ方が例年とは違うように思います。それでも、「明日の最高気温は26度、全国的に夏日になる見込み」などという天気予報を目にすると、夏が近づいてくるのを感じます。
さて、夏になると気になってくるのが湿気です。梅雨の季節を迎え、気温の上昇とともに湿度が上がってくると、害虫やカビの発生が心配になってきます。害虫の中には布を食べるものもいるので、大切な着物に虫食いができてしまうこともあります。現在は、エアコンの除湿機能を使ったり、除湿剤や防虫剤をタンスに入れたりする人が多いと思いますが、今回は、昔ながらの知恵の一つ「虫干し」を紹介したいと思います。
「虫干し」の起源は古く、平安時代には宮中行事の一つとして行われていたようです。行う時期によって「土用干し」「寒干し」などという呼び方があり、年3回行うのが理想とされています。「土用干し」は夏の土用のころ(7月下旬~8月上旬)に行われ、梅雨の間にたまった湿気を抜く目的があります。稲作の学習で取り上げられる、水田の水を一旦抜く「中干し」もこの時期に行いますが、どちらも、晴れの日が続く夏の盛りだからこその行事ですよね。風を通して湿気を抜くとともに、衣類に染みやほころびがないかをチェックし、必要なら修理を行いました。また、防虫剤の入れ替えもこのときに行います。白檀など天然素材のものは「防虫香」と呼ばれ、防虫効果とともに良い香りが広がるので、現在でも使われています。
また、「虫干し」は衣類だけでなく、家具や絵画、書籍に対しても行われます。現代の感覚ではちょっと意外に思うかもしれませんが、印刷技術のなかった時代は書籍は大変貴重でした。そのため、紙を食べる虫から書籍を守るために「虫干し」は欠かせない行事だったのです。現在でも、長崎県の原爆資料館では、8月9日の平和記念式典の前に、原爆死没者名簿を天日にさらして虫干しを行っており、その様子がニュースで報道されることもあります。名簿を外に出すだけでなく、こまめにページをめくって風を通したり、記載されているお名前などが間違っていないかなどのチェックも行うなど、大変細やかな作業です。大切な名簿を守り、未来に永く伝えたいという熱意を強く感じました。
いかがでしょうか。古文書や古い着物、道具類などが現在まで受け継がれている背景には、こうした丹念な作業の積み重ねがあったんですね。生徒のみなさんも、衣類の整理をするときにぜひ思い出してみてください。