「履歴書」というものを見たことはありますか?簡単に言うと「自分がどういう人間が知ってもらうための書類」です。小学生の皆さんにはなじみがないものですが、仕事を探したり、勤めたい企業に対して就職を申し込んだりする(「就職活動」といいます)ときなどに用いられるもので、氏名や住所、性別だけでなく、どこの学校に通ったか、どんな特技や資格を持っているかなどを記すことができます。文房具店やコンビニなどでも販売しているので、見かけたことがあるかもしれませんね。
4月16日、この履歴書に関して大きな動きがありました。これまでは履歴書のほとんどに「『男・女』のどちらかを選ぶ欄」があったのですが、この選択肢がない形の履歴書の様式例(見本)を厚生労働省が示したのです。これまで通り性別を記すこともできますし、書きたくない場合は書かなくても良いことになります。「男・女」のどちらかを選んで○をつけたり、「男・女」を分けたりすることは、私たちの生活のさまざまな場面で見られるものですが、なぜ今回このような決定がされたのでしょうか。
1つは、企業側の採用活動において、性別が判断に用いられるケースが後を絶たないことが挙げられます。もう1つは、心の性別と体の性別が一致しない「トランスジェンダー」の人にとって、「男・女」のどちらかを選ばなくてはならないということが大きな苦痛になったり、自分が望まない形でトランスジェンダーであることを伝えなくてはいけなくなるといった問題が起こっているからです。こうした問題に対する働きかけの結果、昨年7月には日本規格協会が「性別欄のある履歴書の様式例」自体を削除していますが、今回は国(厚生労働省)が「性別を選ぶ欄のない履歴書の様式例」を作成したことで、さらに一歩前進したと言えるでしょう。また、性別だけでなく、顔写真の貼付や年齢の記載なども削除する動きが進められています。採用担当者がこうした情報によって無意識のうちに先入観を持ってしまうことを防ぎ、誰もが安心して就職活動に臨めるようになれば、多様性を認める社会により近づくことができるでしょう。
さらにこのことは、「そもそも、就職や採用・企業での勤務において、性別や容姿、年齢を明らかにする必要があったのだろうか?」と、これまで「当たり前」「常識」とされてきたことを見直すきっかけとなりました。それと同時に、私含め多くの人が「常識」に対して疑いを持たずに過ごしてきたことへの気づきとなったでしょう。社会科の学習を進めていくと、これまでにも多くの「常識」が覆されてきたことが学べると思います。今見えているもの、知っているものを不変のものととらえない、そんな柔軟さは今後ますます必要になるのかもしれません。
こうした「常識の見直し」が入試問題に取り上げられた例を1つ紹介しましょう。「かつて絵の具やクレヨンにあった色の表記で、2000年ごろから『うすだいだい色』『ペールオレンジ』といった名前に変更が進んでいる色の名前」と、「変更された理由」を問う、2021年聖光学院の問題です。すぐに思いつかない場合は「わざわざ変更するべき(変更しなくてはならない)理由になりうるものは?」「お父さんやお母さんの時代とは呼び方が変わったものがあるか?それはどんな理由だったか?」という方向で考えてみましょう。そうすれば、かつての「看護婦」が「看護師」という呼び方に変わったように、「肌色」を「肌色」と呼ばなくなった理由も見えてくると思います。ぜひ考えてみてください。