入試問題について,受験生の側からではなくて中学校の立場から考えてみましょう。
問題を用意するにあたって重要なことは,その学校が求める生徒像にあう受験生を合格させることです。
問題が簡単すぎたり難しすぎたりすれば差がつきませんし,序盤に難しすぎる問題をいれてしまえば,それをいったん回避するという判断を上手にできた受験生が合格することになります。
そのような観点から興味深いのが,ここ2年間で開成中から出題された問題です。
○2015年大問4
平行四辺形の面積が(底辺)×(高さ)で求められるように,斜めに傾いた角柱の体積は(底面積)×(高さ)で求められます。
○2016年大問1
x%の下り坂では移動する速さがx%だけ増すことになります。ここで下り坂がx%であるとは,
x=(下向きに移動する長さ)/(横向きに移動する長さ)×100
のことを指します。
どちらの問題も,「公式」が提示されています。
従って,受験生は与えられた公式をもとに論理を組み立てて問題を解くことになります。
以前から開成中は,既存の問題を精緻化させて難問を作るということをしてきました。時計の問題に秒針を持ち込んだのがそのわかりやすい例です。上にあげた2016年の大問1も,坂道の問題に傾き具合による速さの変化を導入しているので,その点では似ていると言うことができます。ところが,これまでに「精緻化」によって作られてきた問題は,概して難しくなりすぎていました。合否を分ける一問にはなりにくかったのです。
上に挙げた2問は,絶対的な難易度という点では「そこまでではない」ものです(あくまでも開成規準でですが)。公式をもとに冷静に論理を組み立てれば,開成中受験者ならば正解することができます。つまり,この2問は,既存の例題の応用問題や発展問題ではなくて,新しい例題なのです。
応用問題や発展問題の発想で作られた入試問題は,ともすると難しすぎて合否に関係がなくなるか,当該単元を徹底的に勉強してきた生徒のみが正解するかのいずれかに陥ってしまいます。開成中は原理に基づく堅牢な論理構築を生徒に求めてきた学
校ですから,それは望ましい事態ではありません。新しい例題という発想は開成中の試みとして,注目に値する大変興味深いものです。