だいぶ前の出来事です。約30年の塾教師人生でたった1回の、誰もが経験したことのないであろう、あってはいけない出来事のご紹介です。小6受験生の保護者の皆さん、そして小5生以下のこれから受験を迎える保護者の皆さんも、お子様の努力を無にしないためにも、ぜひ他山の石としてお読みいただければ幸いです。
どこの塾でも同じだと思いますが、ご家庭から受験校の受験番号をお聞きしています。塾でも発表を確認させていただき迅速に対応させていただくためですが、聞き間違い・書き間違いという場合もないとはいえないので、正式にはご家庭との確認をもって正式な合否結果とさせていただいています。
Aさんの合格発表をインターネットで確認したところ、無事受験番号を確認することが出来ました。しばらくするとお友達Bさんのママ友Bさん母から電話が入りました。
「先生、Aちゃん合格しましたよね。お互いに番号教え合っていて、今インターネットで確認しました」
「はい、ただ、まだご家庭と確認が取れていないんです」
「先生、おめでとう、の連絡してもいいものでしょうか」
「塾としては、ご家庭とまだ連絡が取れていませんので、何とも言えませんが、Aさんからの連絡を待ってからの方が良いのではないでしょうか」
「そうですか」
でBさん母とのお電話は終わりました。
Aさんになかなかお電話がつながりませんでしたが、やっとAさん母がお電話を下さいました。が、なんと
「先生、残念ながら不合格でした」
とおっしゃるのです。私もやや気が動転してしまい、Bさん母に早く伝えなければと思い、電話が終わるやいなや、Bさん母にお電話で状況をお伝えしたところ、
「合格おめでとう、と書いてFAXでさっき送ってしまいましたあ。先生、どうしてくれるんですかあ」
(心の声、えええ、おれえ、FAXなんて聞いてないし、OKなんて言ってないよう)と思いつつ、
「送ってしまったものは仕方ないので、なるべく早くお詫びのお電話をさしあげてください」
で電話を切りました。
少し落ち着くと、でもいただいた受験番号では確かに合格しているのです。念のため確認をと思い、Aさん母にお電話しました。確認したところ受験番号は合っていたのです。
合格していたのです。
お母様がどうせ受かっていないだろうという心理で発表を見てしまったことと、その学校は確か縦に合格者番号を掲示していたのですが、お母様は横に見て、番号がない、と思い込んでしまったのです。
Bさん母にもお伝えしたところ、あの後すぐにFAXのお詫びのお電話をしたそうなのですが、Aさん家には部屋の間取りのような意味不明のFAXが届いていただけだったのでした。実はBさん母は広告の裏に書かれたのですが、広告の裏表を間違えてFAXしていたのです。しかも実際には合格だったので、FAXもちゃんと届いていれば、結果的には間違いではなかったことになります。
しかし話はこれで大団円、とはならないのであります。
合格手続き書類の受け取り締切時間(確か当日の午後5時頃だったと思います)をすでに過ぎてしまっていたのです。Aさん母はとても落ち込んでしまっています。自分のせいで子どもの努力を台無しにしてしまった。子どもに正直に話すか、いっそだめだったことにするか、そこまで思い詰めておられました。
ここでBさん母が活躍されます。当事者でない分、かえって大胆に発想、行動が出来るようです。とにかく学校に行ってみようということで、Aさん母を連れて学校に向かいました。
ところが既に教職員の方すべてが帰宅されていたようで学校には誰もいません。校舎もセキュリテイがかかっていて中に入れません。仕方ないのでお母様二人は事情を書いたメモを門の扉という扉に挟んで、その日は帰ってこられました。
その報告をBさん母からいただくとともに、Bさん母から
「先生、明日Aさん母と一緒に学校に行って手続き書類をいただけるよう、一緒にお願いしてあげてください」
と頼まれました。
そこまで立ち会ってよいのだろうか、という思いも少し頭をよぎりましたが、大変な緊急事態ですし、自分に少しでも出来ることがあるならばということで、了解致しました。本来行くはずだった翌日の入試激励は担当を変更していただいて、Aさん母に連絡を取り、翌日早朝待ち合わせをして学校に向かいました。入試担当責任者の先生が出勤されるまで、応接室で待ちました。
責任者の先生がお越しになり、お母様がご事情を説明したところ、
「わかりました。合格しているのは事実ですので、今書類をお持ち致します」
ということで、無事手続き書類を受け取ることが出来たのです。
無事、手続きも終了し、Aさんは第一志望校に入学することができました。
結果的には、問題なく事態は収拾したのでありました。
合格発表の確認はくれぐれも丁寧に慎重にお願い致します。特に補欠合格の発表がある学校はご注意ください。受験番号順ではなく、繰り上がり順の発表の場合が多いです。
お子様の努力の成果を最後のかたちにしてあげるのは親の努めでもありますし、親にしか出来ないことでもあります。
2月1日まで、あと少し。悔いのない1日1日を積み重ねて行って欲しいと思います。
きっと きっと 春は来る
そう信じて! そう祈って!