【2015筑波大学附属駒場】
長野まゆみ『改造版 少年アリス』より
弟をからかい、つきはなしつつ、身を案じて安全策を講じる兄と、意地をはりながらも兄を慕う弟の、ほほえましい兄弟愛。
アーサー・ビナード『なれ』(詩)より
「ぼく」に脱がれ、置いてきぼりを食ったかのような寂しさを抱えた「上着」を気遣う、「ぼく」の優しさ。
【2015開成】
鷲田清一『大事なものは見えにくい』より
ケアする側が「強者」として連帯し、患者達をいたわる反面、被介護者を「弱者」として差別する危険性。
エトガル・ケレット『ブタを割る』より
ほしがる物をすぐに買い与えず、貯金の過程を経験させることで、息子に物やお金の大切さを伝えようとする父。貯金箱と日々ふれあい、笑みを交わし、安心や喜びを分かち合い、守りぬこうとする息子の心に芽生えた「友人を愛する心」。
兄弟愛、優しさ、個の尊重、友情…
筑駒中や開成中の入試問題の文章で、このような価値観が提唱されることは、かつては少なかったといえます。少年の鮮烈なる内面的気づきを軸に、周囲の友人や大人社会に対する強烈なアンチテーゼを掲げ、独立独歩の気概をもってわが道を進む…そんな人間像が語られることのほうが、圧倒的に多かったようです。
しかし、昨年から、これらの男子最難関中学にあっても、他者との連帯に焦点を当てた作品が多数、登場するようになりました。
まわりに流されぬ確固不動の信念を抱き、突き進むことも、時には必要でしょう。最終的に、自分のことは己自身で責任を持つしかないから。でも、私たちが生きている今、この時代に、最も大事にしたいことは…一人ひとりは、小さくてちっぽけな存在かもしれないけど、支えあい、守りあい、手を差し伸べあっていけば、大きな力になることを信じて、隣人とささやかな絆を結ぶことではないかな…
最難関中学の問題傾向は、世相を先鋭的に反映したものといえるかもしれません。そして、現代の私たちに、こんなゆるやかな指針を与えてくれているのかもしれませんね。