【2015桜蔭中】
木内昇『櫛挽道守』
櫛挽職人である父の積年の技量に感嘆し、尊崇の念を深めるほど、嫁ぎ、愛する家業と離れねばならぬ無念さをかみしめる娘・登瀬…櫛挽にあこがれていた彼女が、畏敬の対象である父から神聖な座を譲られたことへの驚き、そして父が長年座り続けてできた床の窪みに身体を収め、温かい愛情を受けとめたことによる安堵。
【2015女子学院中】
小川洋子『心と響き合う読書体験』
金子みすずさんの詩の世界。ごく身近なものの中にある、普段は目にうつらない永遠なるものに気づかせてくれる。決して衒うことなく、謙虚に人間本来の寂しさやせつなさを語りかけてくれる。だからこそ、大人から子どもまで、多くの人々の心の支えになる。
上の雪 さむかろな。 下の雪 重かろな。 中の雪 さみしかろな。…
職人の父と娘の、櫛挽作りを通した、温かな心の通いあい。
降り積もる雪に向けられた、優しい眼差し。
いずれも、自分のことだけで頭も心も飽和状態に陥っているかのような私たちの日常に、一味違う視点を提供してくれているように思えます。
目前の課題に真正面から向き合っているうちに、家族や仲間の気持ちも顧みることができなくなってしまう。ましてや、めぐり来る四季や自然環境の変化に心を留める暇など、期待すべくもない。
そこに、真の幸福があるとは、思えません。
日常生活が繁多であればあるほど、ふと立ち止まって、友や自然界の声なき声に耳を傾ける心の余裕を、何とか捻出できないものでしょうか。
仕事や勉強は、もちろん大事。でも、それらを応援し、支え、意義あるものとしてくれているのは、ごく身近な人々や母なる大地、そして宇宙の律動というべきか。
その、豊かな鼓動を全身で受けとめ、明日へのエネルギーを充電する意思力こそ、主体的に紡ぎ出さねばねらないのかもしれませんね。