2016年の中学入試・国語科においては、心の内なる経験知を積み重ね、内面的陶冶を勧める文章が多く出題されました。
「生きる事をあきらめずに、妥協せずに、……今、どう生きているか……”輝ける生”を生きるかどうか」【筑波大学附属駒場中『死に刻む』(園子温)】
「アラスカではどんなことでも、自分自身で経験し、学びとっていかなければならない」【開成中『アラスカ 光と風』(星野道夫)】
「自分の心を確かめる……準備が必要であり、待つことも、期待も、また不安もそして決意も必要」【桜蔭中『建築を愛する人の十二章』(香山壽夫)】
「世間の評価や価値観を超えた……自分の眼と手で見つけたものを、自分の流儀で……」【女子学院中『本の夢 小さな夢の本』(田中淑恵)】
「子どもの文学は、日常の中にある幸福に驚く力を私たちの中に培ってくれる」【女子学院中『幸福に驚く力』(清水眞砂子)】
「『自分では見えない自分の成長』を実感させてくれるのが『お茶』だ。最初は……わけがわからない。ある日を境に突然、視野が広がるところが、人生と重なる」【雙葉中『日日是好日』(森下典子)】
「道具というものは……必ず主体である私たちの精神とか心とかいうものの癖を受けている」【渋谷幕張中『悪に耐える思想』(福田恒存)】
自然環境や社会・文化など、外面的な構造を述べた文に比べ、人間自身の、今、ここにおける主体性を問う文章が増加しているといえそうです。
私たちは、震災を経験し、共通の危機に対しては、何を差し置いても他者と手を結ぶ助け合いの精神を学びました。そして、物理的・精神的な復興の進捗とともに、そろそろ、私たち自身の心のあり方を再び模索する時期に差し掛かってきているのかもしれません。
私たちも、受験生たちとともに、これらの名文・良問に触れながら、自主自立の人間像のありようを、わが胸に問いかけていきたいと思います。