雙葉中の出題から。
動物の生態については、思い込みや「常識」などの先入観にとらわれず、自分の目でありのままを直視することによって、新たに見えてくるものがある。(岩合光昭『生きもののおきて』による)
「頭のいい人」は、前途の難関について見通しが利く分、前進する勇気を失うことがある。反面、「頭のわるい人」は、なりふり構わず渦中に飛び込めるので、思わぬ宝をつかみうる。(寺田寅彦『科学とあたま』による)
私たちの日常は、その多くが、過去から学習したことに基づく経験則によって成り立っているといえるかもしれません。それを一つでも多く身につけて、こなれた「良識的」判断のできる人が、社会の中で高く評価されるともいえるでしょう。この資質は、社会を安定的に維持するためには、必要な条件の一つに違いありません。
しかし、その見識が、ことさらに未来を縛り、また、手放しで絶対視されるとき、そこに、変化を拒み、従来の慣習に安住してよしとする頑迷固陋さを招く危険性を孕むとも考えられます。
今、自身が抱える課題の最も困難なところに敢えて身を置き、四つに組む。そこで、歴史的経験すら超克した独自の知恵を編み出す可能性は、皆無といえるでしょうか?また、開道の権利は、一部の優秀な特権者に限られましょうか?
一歩を踏み出す勇気が、未知の宝珠をもたらすかもしれないことに気づかせてくれた本年度の雙葉中の出題でした。
2019年出題のいくつかを、簡単に振り返ってみましょう。
【開成中】
現実逃避の果ての希望は、「役立たずのがらくたのおもちゃ」というべき?向き合う勇気をくれた海よ、ありがとう。(萩原浩『空は今日もスカイ』)
【麻布中】
家族や今の生活の大切さに少しずつ気づけたかな?(安東みきえ『天のシーソー』)
【桜蔭中・武蔵中】
(沖永良部島に墜落した特攻機に乗っていた)伍長「いきててよかった」…少女「お国のためにがんばってきてねって…もう手は振らない」(中脇初枝『神に守られた島』による)
【女子学院中】
地域医療に携わる筆者「命よりもアスパラが大事ですか(当惑、苛立ち)」。患者「もちろんだ」。筆者、季節とともに人が生きる営みへの理解が芽生える。(夏川草介『五月の贈り物』による)
【雙葉中】
「先入観」「常識」「見通し」の危うさ。自分の目で直視して前進する勇気が、思わぬ宝をもたらす。(岩合光昭『生きもののおきて』・寺田寅彦『科学とあたま』による)
「足下に泉あり」……“今いるところや家族など、身のまわりに眠る大切な価値に気づこうか。そして、何より、自分の本心のありのままの声に耳を傾けてみようか”
こんな鼓動が聞こえてくるようです。
さあ、2020年入試が始まります。
今年、各校から発信されるメッセージに、受験生のみなさまとともにじっくり耳を傾けながら、来たるべき次の入試に向けて、新たな一歩を力強く踏み出して参りたいと思います。
今後とも、よろしくお願いいたします。