2年前のブログで紹介した、2024年の大河ドラマ「光る君へ」の放送が始まって早くも5か月が経とうとしています。ドラマなので多少脚色があるとはいえ、平安時代を代表する歴史上の人物が数多く登場しており、なんとなくこの時代の雰囲気を味わえている人も多いのではないでしょうか。
さて、すでに歴史を勉強し終わっている6年生の皆さんは、この時代にすぐれた文学作品が数多く生まれたことを知っていると思います。「源氏物語」のような物語文学だけでなく、数々の和歌集や随筆、日記が書かれ、現在に至るまで多くの人の心を引き付けています。特に随筆や日記作品は、いまだ分からないことも多いこの時代においては貴重な歴史資料としての役割を果たしており、「光る君へ」だけでなく、皆さんが読んでいる歴史の漫画でも、こうした作品からの引用とみられる描写がたくさんあります。こうした文学作品、特に女性作家によるすぐれた作品が生まれた理由の1つに、「かな文字が生まれたことによって、より細やかに心情や情景を表現することが可能になった」ことが挙げられています。中学校・高校の古文(古典)の授業では、作品を原文で(現代語訳ではなく、当時の書き方のままで)読む機会があるので、ぜひともそれを楽しみにしていてほしいと思いますが、一例として、枕草子の「○○なもの」に出てくる形容詞・形容動詞を挙げたいと思います。それぞれどんな意味だと思いますか?
①うつくしきもの (原形:「うつくし」)
②こころにくきもの(原形:「こころにくし」)
③すさまじきもの (原形:「すさまじ」)
①:皆さんが普段使っている「美しい」とほぼ同じに見えますね。単純に「美しい」と訳すこともできるのですが、厳密に言うと小さいものや子どもなどに対して「かわいらしい」という意味での美しさを表す場合があり、枕草子の「うつくしきもの」でもそのように使われています。古典作品には美しさ・立派さを表す表現が数多くあり、対象や文脈に合わせて細やかに使い分けがされています。かな文字があるからこその多彩な表現方法と言えるでしょう。
②:なんとなくマイナスの表現の意味に見えた人も多いのではないでしょうか。ところが意外なことに「奥ゆかしいもの」「上品である」という意味を持っており、枕草子でもそのように使われています。ちなみに、「にくし」という形容詞もあり、こちらはそのまま「憎いもの・腹立たしいもの」という意味で用いられることが多いのですが、「(憎らしいほど)立派である」というときにも使うことがあります。プラス・マイナス両方の意味を持つ表現があることも、古典作品の難しさであり、また面白さでもあります。
③:これも①と同様、現代の言葉の「すさまじい」と同じように見えますね。「すさまじい」を国語辞典で引くと、「激しい勢いで恐ろしいほどである」「常識をはなはだしく逸脱してひどい」という意味が出てきます。ところが、古文の「すさまじ」は、「興ざめである」「おもしろくない」といった意味で使われます。小学生の感覚だと「イタい」「ざんねん」に近いでしょうか。
いかがでしょうか。清少納言も紫式部も、心情や情景をよりピンポイントに描くためにさまざまな表現を使い分けていたことがわかりますね。このように繊細につくられた作品だからこそ、時代や国を越えて愛され続けているのだと思います。歴史の授業では作品の内容まで扱うことはできませんが、こうした感性豊かな人が生きた時代だということを知っていると、より親しみがわくと思います。