今回は、趣向を変えて、近年の国語中学入試全般に共通してみられる出題テーマを考察してみたいと思います。以下、入試で多くみられた出典や出題校の検索は、「2013年度受験用・中学入学試験問題集・国語編(みくに出版)」によります。
【むすびつき】
(1)仲間・友人との”むすびつき”の大切さ
●入試出典
・椰月美智子「しずかな日々」(講談社文庫)
2012江戸川女子・富士見・聖園 出題/2011筑波大附属・獨協埼玉・暁星・早稲田 出題
第45回野間児童文芸賞/第23回坪田譲治文学賞
※小5「えだいち」、母仕事都合で祖父宅へ。素朴な少年との交友で寂しさは晴れ、心充実。
・重松清「小学五年生」(文藝春秋)
2012春日部共栄・佼成学園 出題 (いずれも「正」)
2011中央大学附属・相模女子大中学部 出題
※5年生の少年、初めての学級委員当選。自負心で戸惑いつつ、周囲の期待を受け止める。
・森絵都「宇宙のみなしご」(角川文庫)
2012清泉女学院・東京純心女子 出題
第33回野間児童文芸新人賞/第42回産経児童出版文化賞ニッポン放送賞
※「一人の奮闘でも、時に支える仲間が必要」と通じ合う、14歳陽子、その弟・不登校児。
(2)家族との”むすびつき”の大切さ
●入試出典
・大塚篤子「おじいちゃんが、わすれても・・・」(ポプラ社)
2012実践女子・玉川聖学院 出題/第35回日本児童文芸家協会賞
※この犬のように、祖父も「認知症」を進行させたら、「大好き」でいられるか不安な杏。
・竹内真「自転車冒険記 12歳の助走」(河出書房新社)
2012筑波大附属・田園調布学園・横浜富士見丘中等教育(第1回A) 出題
※自転車長距離走に挑戦しようと意志を抱く小6「北斗」。自立を促しつつ温かく見守る父。
・瀬尾まい子「卵の緒」(新潮文庫)
2012東京都市大等々力(特選一貫)・横浜(1次A) 出題/第7回坊っちゃん文学大賞
※9歳育夫。息子に無関心な母に、「僕は捨て子?」。抱きしめられ、母の愛を深く感じる。
(3)自然・生態系との”むすびつき”の大切さ
●入試出典
・宇根豊「農は過去と未来をつなぐ 田んぼから考えたこと」(岩波ジュニア新書)
2012西武文理・田園調布学園 出題/2011関東学院(B日程)・女子学院 出題
※神託的「原生自然」モデルに拘らず、人が関わり共存できる自然の豊かさに目を開け。
・鷲谷いづみ「さとやま 生物多様性と生態系模様」(岩波ジュニア新書)
2012帝京大・品川女子 出題
※人と自然が共に育んだ「さとやま」生態系は、ストレスを緩和し、子供の成長を促す。
・岡本裕一朗「12歳からの現代思想」(ちくま新書)
2012東京農大一高(第3回)・本郷 出題
※本来、人間と一体である文化社会的”自然”は、人間が広い視野から「管理」しうる。
いかがでしょうか。
本年度入試では、テーマ”友情”が大幅に復権している感があります。
また、震災以降、社会的に強調されるようになった、家族とのいわゆる”絆”の価値も大きな位置を占めています。上記の作品群は、「少子高齢化社会」や、足下にあるのに気づかれぬこともある大切な親子愛への刮目を促すものであり、家族間の目をおおいたくなるような事件を見聞きする昨今の世相を反映した部分があるのかもしれません。
さらに、自然生態系との関わりを題材にした作品群には、人間と環境世界とが渾然一体化した生命有機的連関性を前提にした思想が色濃く反映されるようになりました。一昔前のこの種の説明文では、「神聖なる自然VS欲深く罪深き人間」という認識基軸があったものです。しかし、この枠組みも、依然、人間と自然を分断して捉える発想を脱していません。そこから導かれる行動は、極度に自然を神聖視して、腫れ物に触れるがごとくし、本来、身近な友達であるべき自然を、何か遠い世界のものに変えてしまうか、そうでなければ、従来のように人間が一方的に自然を支配し、搾取収奪する構図でしょう。そうではなく、もとより環境世界と人間は、相互に切っても切れない大きな生態連関の一部分を形成しており、このダイナミックな全体観に立脚して、それぞれがそれぞれにしかできない役割を果たして共存共栄を目指そう、というテーマが、近年、大きく扱われるようになりました。
以上3点をふまえ、「友人」「家族」「自然生態系」との”むすびつき”こそが、最新の入試出題潮流だと言えるのではないかと思います。私たちにとって、とても大事な価値観であることは間違いありません。
次回は、このテーマと、年間を通して述べてきた、最難関校の出題内容との対比や、そこから見えてくるものを扱います。シリーズを通してお読みいただいている方は、次月まで、しばらくお考えいただけますと幸いです。