試験時間50分 満点85点
論説的随筆文1題 3問 解答形式 字数あり
物語文1題 4問 解答形式 字数なし 2行の枠
大問1 随筆文 出典は佐々木正人『時速250㎞のシャトルが見える』(2008年7月初版)から。
筆者が埼玉県所沢市にある国立身体障害者リハビリテーションセンター学院の学生さんに聞いた話です。事故でひざから下を両足とも切断した人がプールで泳ぐとどうなるか。最初は水にプカプカ浮かぶだけです。しかし、数日間プールの水につかって動いているうち、背と腰をくねらせる水平運動が現れてくるのです。周囲の環境の中で行動を可能にしている性質のことを「アフォーダンス」といいます。
問2では、アフォーダンスがあるなと筆者が思えるようになった理由を60字以内で説明します。問3では、筆者が「失明者についてあるくという経験」と「スポーツ」ではどういう点で共通しているか「アフォーダンス」という言葉を用いて50字以内で説明します。
筆者は、失明した男性の歩行訓練に付いて歩いたとき、振動の満ちた周囲の環境への感覚が研ぎ澄まされたことを実感しました。スポーツのどの種目も特殊な環境を過酷なかたちで構築することで成立します。アスリートといわれる人たちはそこでの不自由さを十分に味わいつくし、不自由さの中のわずかな自由を活かしきっている人たちなのです。ともに過酷で不自由な環境の中で、わずかに存在するアフォーダンスを活かして体を動かしている点が共通しているのですね。出典の『時速250㎞のシャトル』とはバドミントンのシャトルのことです。入試問題の範囲ではなかったのですが、本書には2008年北京オリンピックの日本代表、“オグシオ”こと潮田玲子さんのインタビューも入っています。
大問2 物語文 出典は千早茜『おとぎのかけら 新釈西洋童話集』「鵺の森」(2013年8月初版)から。
「僕」が、小学校の同級生である「翔也」に街で声をかけられ、十五年ぶりに再会します。僕が小学校時代のことを回想する場面から始まります。僕が転校した町は人口が少なく、人々は細かい部分にまで注目してきます。僕は異物と見なされないようふるまっていました。同じクラスの翔也も転校生で、父親がハーフで見た目が異なるためにいじめられていました。僕は上半身に痣(あざ)があり、翔也はタトゥーがあったので、二人で秘密を共有していました。しかし、ある日、図画工作で素晴らしい模型を作り、まわりから賞賛される翔也をみて、僕は翔也の秘密を周囲にばらしてしまいます。再びいじめられるようになった翔也は学校に来なくなりました。学校の裏には鵺(ぬえ)がいると言われた森がありました。場面は現在に戻り、翔也は鵺の森に入ったことを話し出します。
問1では、僕の「安心」とはどのようなものか説明します。問3では翔也の作った工作が「大きく羽を伸ばして、今にも飛び立ちそうに生き生きとしている」と感じた僕の気持ちを説明します。問4では、鵺を見る前と見た後で翔也の気持ちの変化を説明します。
転校してきたばかりの僕は、言葉の違いなどちょっとしたことでいじめられないかと不安に思う中、翔也という外見もしぐさもあからさまにいじめられそうな生徒を見たことで、自分がいじめられることはなさそうだと安心します。翔也の作った模型が僕にとって生き生きと見えたのは、今までみんなにいじめられ、まるで生気を感じられなかった翔也が作った模型の存在感に圧倒され、周囲の生徒の翔也を見る目も明らかに変わっており、いじめが翔也ではなく自分に向かってくるのではないかと恐れたからなのです。いじめられていた翔也はいつか誰かが自分のことを理解してくれる日が来ると夢見ていたが、死ぬ覚悟までして鵺を見た後は、他者の理解を求めず孤独を受け入れて生きる決意をしました。少年たちの不安や恐れ、絶望する気持ちを読み取り記述する物語文でした。
以上、お読みいただきありがとうございました。今後もさまざまな国語文章に触れ、学習に取り組んでいきましょう。(佐藤)