今月19日から3日間にわたり、広島でG7サミット(主要国首脳会議)が開催されました。7年ぶりの日本での開催であり、また世界で最初に原爆の被害を受けた広島の地で開くことによって、平和へのメッセージがより強固なものになることが期待されました。岸田首相にとっても、出身地でのG7開催は強いアピールになったことでしょう。
さて、皆さんは「交渉のテーブルにつく」「話し合いのテーブルにつく」という言い回しを聞いたことがあると思います。これはもちろん「交渉を行う」「交渉を始める」という意味ですが、「利害の一致しない・交渉が難しい・これまで交渉がうまくいかなかった」相手を想定して使われることが多くあります。政治というのはまさしくそのような難しい交渉の場であり、国際間の交渉ともなれば一筋縄でいかないことは容易に想像がつくでしょう。今回のG7でも、円卓を囲んで笑顔を見せる首脳たちの様子が報じられましたが、話し合いの内容は決して笑顔で乗り切れるものではなかったはずです。
こうした外交の場において、食事を中心とした「おもてなし」は、首脳同士の友好を深め、また交渉を円滑に進める役割が期待されるものになります。今回のG7でも昼食会や夕食会などの他、首脳の配偶者たちだけの昼食会や夕食会も開かれました。それらは「ワーキングランチ」「ワーキングディナー」という言葉が表すように、あくまで話し合いがメインの食事会ではありますが、それによって交渉が前向きに進んだり、思わぬ本音を引き出したりしてくれたのではないかと思います。またG7の食事では、開催地の特産物や開催国の企業の製品が出されることが多いため、地元にとっては格好の宣伝効果になるでしょう。例えば19日に宮島の旅館で開かれたワーキングディナーでは、広島産の牡蠣や牛肉、さらに広島のお土産品として知られる紅葉まんじゅうを使ったメニューが提供されました。各国首脳のそれぞれの好みをくみ取りつつ、地元の活性化につながるようにメニューを組み立てることの苦労は相当なものであったと思います。
一方、日米首脳会談など、一対一での交渉の場においては、招待した相手の好みや意向に合わせて飲食店を選んだり、国産のものではなく、あえて相手国で生産されたものを使ったメニューを選択したりする場合もあります。今年3月に韓国の尹大統領が来日した際は、銀座のすき焼き店での夕食会の後に洋食店を訪ね、尹大統領が好きなオムライスを囲んだことが注目を集めました。また、同じアメリカ大統領でも、2014年のオバマ大統領のときはすし店、2017年のトランプ大統領はステーキやハンバーガー(しかも使用する牛肉はアメリカ産)という違いがありました。こうした食の好みから、その首脳の性格や考え方、さらには政治における姿勢なども見えてくるように思えます。皆さんも、こうした首脳たちの「テーブル」から、想像力を働かせてみてはいかがでしょうか。
Jean Anthelme Brillat-Savarin(仏、1755-1826)「君がどんなものを食べたか言ってみたまえ、君がどのような人間であるか当ててみせよう」