本年度、女子学院中の入試問題から。
シンポジウム等では、失敗を恐れず一時の恥を忍び、勇気を出して、積極的に発言・質問しよう。講演者は、必ずきちんと答えてくれる。すると、それまでの小さな自分の殻から抜けだして視野を広げられ、新しい知的刺激と感動が得られる。結果的に、公の場で自分の考えを語れるプレゼン力や対人交渉力が養われ、人間的な成長も早い。
(今北純一「自分力を高める」による)
日本では、「黙して語らぬ」ことが、尊ばれる傾向にあったようです。
隣人との協調行動こそが生き延びる術であった古来の農耕社会の伝統に系譜を引く、「横並び社会」を無難に維持するためには、僅かな自己主張でさえ、”出る杭”として奇異な目で見られ、時に圧迫の対象となる。周囲の人々は、そんな存在を忌避するとともに、「自分だけはそうなりたくない」と思い、ますます本音を押し殺して、皆と歩調を合わせられる自分を演出することに努める。その結果、言葉数が減っていったのだろう。
翻って、近代化の波の中で、異文化や利害を異にする人と妥結し、平和的な調整を行う必要に迫られ、言語や論理性といった明示的な意思疎通手段の土俵に上らねばならぬ現実に直面した。このコミュニケーション方法こそ、日本人が最も苦手としたものなのかもしれない。しかし、自分の考えを、万人にわかる言葉で説明できなければ、国際化はもとより、日々の生活すら営めない世の中になってしまったのだ。
本年度の出題テーマには、こんな問題意識が背景にあるのかもしれません。
大人になれば、全く違う生い立ちを経て、今日、たまたま、あいまみえた自分と他人の利害が異なっているのは、むしろ当然ですね。相手を許せなくなることがあっても、不思議ではありません。そんな時、どうしましょう。現代社会は複雑です。「和」を重んじてひたすら黙し、忍従に徹する日本的伝統気風だけで貫き通せるほど、私たちは単純な世の中に生きていません。さりとて、感情剥き出しのけんかをするのは、児戯に等しいでしょう。やはり、妥協点を見つけ出すための、慎重かつ真剣な交渉を進めるべきですし、そのための対話力が求められるのではないでしょうか。つまり、相手が、集団・個人の如何を問わず、主張すべきことを単純明快に語りぬけるプレゼン力を磨かねばならないといってよいでしょう。出題文にみられるような会議等の場で積極的に発言する心がけや、人のお話の要所をメモする習慣づけ、一流の書籍に触れて「言葉」を磨くことなど、一人ひとりが、自分に合ったスタイルの伝達力習得法を考える必要がありそうです。貝のように押し黙っていても、もはや誰も助けてくれません。
多くの示唆に富む、今年の女子学院中の出題でした。