【2014 筑波大学附属駒場中の出題】
・山極寿一『ゴリラは語る』より
他者との理想的な関係をつくるために。ごく自然な体感尺度をもとに、適度な距離をとりつつ、受容できる懐深さを。ゴリラたちこそ、そのよき「鏡」になってくれるにちがいない。
・鈴木志郎康『終電車の風景』(詩)
汚れた新聞紙を押しつけあい、エゴ剥き出しになった電車内光景の「魅力」。その何と「素直」なことか!
・江國香織『草之丞の話』より
さむらいの幽霊だという「父」との暮らし。不可解さをこえて温めた「家族」のぬくもり。
【2014 開成中の出題】
・日高敏隆『”祟り”という思想』より
伝統的な自然への畏敬の念を今、再び!
・まど・みちお『しんじゅのぎょうれつ』(詩)
孫のおならが「しんじゅ」のように美しく思えるほど深い、祖父の孫への愛情。
※本年度、男子最難関中学の出題です。家族・動物・自然など、他者との親密な交わりからの学びが色濃く反映された内容です。特に、家族との「絆」は特筆すべき主要テーマに復権した感がありますね。
これらを、従前のものと比べてみましょう。
【2010 開成中の出題】
・太宰治「思い出」より
少年時代、校長や次席訓導から「先生も人間、僕も人間」と書いた作文をめぐって取り調べを受けた。しかし、人間に差異があるはずはない、自由奔放に生きる僕も先生も皆、同じ人間ではないのか、と素朴な疑問を感じた。
【2012 開成中の出題】
・下村湖人「次郎物語」より
次郎は思う。私は、乱暴きわまる上級生たちの不正に屈しなかった。か弱き新入生たちを守るためなら、これから、いくらでも、戦う。それは、お祖母さんから感じとっていた、単なる個人レベルのやさしさからではない。正義の怒りによる、真正の「慈悲」を持つ誇りなのだ。
※教師・大人や先輩に対して、強烈な反発を抱く。その怒りは、決して感情的なものでなく、少年なりに悩み、葛藤し、苦渋のうちに導き出した義憤であった…。独立独歩を旨とする最難関中学の矜持がうかがえます。
本年度の出題にみられる「他者からの学び」は、トップクラスの学校に入学し、将来、社会のリーダーたるべき生徒達に、真のエリートのあり方を問いかけているようにも思われます。つまり、すまし顔で人情味なく庶民を睥睨するごとき選士でなく、身のまわりの人々を大事に抱きかかえながら結びつきを深め、学び、また皆のために価値を還元しうる人物像を志向しているといえるのではないでしょうか?象徴的な最難関中学の出題からも、震災をきっかけにして時代の軸が「共助」の方向に流れているであろうことを思わずにいられません。