試験時間60分 満点60点
物語文1題 文字数約9000字 11問
解答形式 記述2~5行の枠 字数制限なし 記号2問
物語文 出典は津村記久子『サキの忘れ物』所収「河川敷のガゼル」 2020年6月初版からの出題でした。
「私」の住んでいるQ町の河川敷にガゼルが現れます。そのことがインターネットで紹介されて以降、多くの人がガゼルを見に河川敷に集まるようになります。ガゼルの生活領域は柵(さく)で囲われ、大学を休学中の私は、その周囲を見張る警備員のアルバイトに応募し、働き始めます。働き始めてしばらく経過した私は、この仕事のぼんやりした感じは自分に向いているから、もう大学には戻らず、ずっとこの仕事をしていたい、だからガゼルにはどこにも行ってほしくないと思います。ガゼルを見物にくる人々の中には、ガゼルの写真や動画などをSNSで発信している女性と、学校で居心地の悪い思いをし、北海道へ行きたいと考えている少年の姿がありました。ある時、ガゼルが地面をけって飛び上がり、柵を飛び越えます。「行け!」と少年は叫びます。私はうなずき、ただ幸運を祈りました。
問6では、「少年の叫びが、私自身の叫びであるような気もした」部分について記述します。問8では、ガゼルを河川敷に残そうとする女性の主張に私がどのような思いを感じ取っているか記述します。問9では、かけ出したガゼルを見て、「走りたかったのか!」と少年が言った理由について記述します。問11では「行け、と少年がまた言うのが聞こえた。私はうなずいた。ただ幸運を祈った」部分について、(1)私は、ガゼルが柵の外に出た理由をどのように考えているか説明する記述、(2)柵の外に出て、かけていくガゼルに対する少年のことばを私が受け入れた理由について本文全体をふまえて記述します。
河川敷の警備員のアルバイトをしていた私は、とにかく学校(自分の大学)には行きたくありませんでした。そこで、少年が「おれは北海道に行きたい。学校には行きたくない」と叫んだことに共感を覚えます。一方、SNSでさかんに情報を発信していた女性には、ガゼルが動物園に引き取られてしまうと、SNSでの発信ができなくなるため、それをやめさせたいという自分勝手な思いがあることを感じ取ります。
少年はガゼルの望みを知ろうとして河川敷に通い観察する中で、ガゼルに対し「きみは行きたいところはないのか?」と問いかけます。ガゼルが何を望んでいるのかを考える中でその姿に自分を重ね合わせ、ガゼルも自分と同じく居心地の悪い境遇から逃れようとしていることが感じられたのです。「走りたかったのか!」という言葉には、ガゼルの望みがはっきりと理解できたことに対する少年のよろこびが込められています。
ガゼルが逃げ出した後、私は、河川敷であろうと、動物園であろうと、上流の山の自然であろうと、そもそもどこもがガゼルにとっては場違いで居心地の悪いものであり、自由な世界を望んでいたのだろうと考えます。少年にとっても、居心地の悪い学校をはなれて北海道に行きたいと考えていたので、ガゼルが柵を飛び越えて外の世界に行ったことは、自己の望みを現実化する行動だったということを理解しました。ガゼルも少年も同じ境遇にある。そしてそれは私自身にも当てはまるものだと実感し、最後はただガゼルの幸運を祈ったのです。
居心地の悪い境遇から解放され、自由になりたい。目の前にいる他者と自分自身を重ね合わせ、気持ちを理解し共感する。ガゼルを中心に展開されるさまざまな人間模様を読むことができた文章でした。
以上、お読みいただきありがとうございました。今後もさまざまな国語文章に触れ、学習に取り組んでいきましょう。(佐藤)