Aさんの思い出
確か「夏期講習」から入塾してくれたのだと思います。後からお母様に伺った話ですが、本当は入塾の意思はなかったそうなのですが、私がAさん宛てに書いた手紙の内容に感激して、Aさんが入塾を選択してくれたのだそうです。手紙を出したのは覚えていますが、どのような内容だったのかは、正直今ではよく覚えておりません。「ことばは思想だ」とは尊敬する先輩の言葉ですが、何かしら言霊がこもっていたのかもしれません。
指導し始めたころはスピードが無く、他の生徒が国語の記述問題を何回か見せる中、やっと一回目が提出できる、という感じで、彼女に合わせて授業をしていた記憶があります。しかし、書いた答えの内容はとても良くて、私が用意した解答例とほぼ同じと思えるような、驚いたことが何回もありました。そのうちスピードもだんだんついてきて、桜蔭中、慶應中等部を志望校とし、日々努力していきました。
6年生の秋の保護者面談の時だったと思います。お母様からこのようなお話しを聞きました。ついこの間、模擬試験を受けに行く朝の電車の中で、突然娘がぽろぽろと涙を流し始めたんです。びっくりして「どうしたの」と聞くと娘が「自分のことをがんばっているなあ、と思ったら、なんだかわからないけど涙が出てきてしまった」というんです。おかしいですよね、と。
普段感じさせないその子の一面をかい間見た思いがしました。「ふと涙が出てくるほど自分のがんばりを自分で認めてあげられる」ほど確かにがんばっていました。おかしいどころか、とても胸打たれた忘れられない記憶として残っています。
努力の甲斐あって、見事桜蔭中、慶應中等部に合格し、慶應中等部に進学しました。中等部・慶應女子高では大学受験のない強みを活かし、また得意な作文力を活かし、作文コンクールで入賞し、韓国政府やスウェーデン政府に無料招待されて見聞を広げ、高校時代は1年間のアメリカ留学、大学時代はドイツ留学なども経験しました。
今は大手新聞社に入社し、女性新聞記者として、類まれな「記述力」とやさしい「感受性」を活かして活躍しています。
ついこの間小学生だったAさん、かつての教え子たちの成長と活躍を心からうれしく思います。
今年の受験生たちもきっと未来のAさんのように、大きくはばたいてくれるはずです。
2月1日入試まで あと50日! です。