伝統的工芸品のお話

2016/5/7

知って得するマメ知識

5社会では,工業の学習が一通り終了しました。さまざまな工業の種類や特色,工業のさかんな地域などを学習しましたが,ふだんの便利なくらしを支える工業という仕事について,理解を深めることができたでしょうか。

 

ところで,同じように工業というくくりの中で学習する伝統工業について,少し詳しく紹介したいと思います。

 

昔ながらの伝統的な製法によって,手作りで生産されているせんい品・陶磁器・漆器などの工芸品が日本各地にあります。一般に「伝統的工芸品」というと,経済産業大臣(2000年までは通商産業大臣)の指定を受けたものを指し,2015年現在で222品目を数えますが,それ以外にも,各地でさまざまな工芸品が作られています。

 

まず,せんい品には「ちぢみ(縮)」「かすり(絣)」「つむぎ(紬)」などさまざまな呼び名があることに気づいたと思います。おもに和服(つまり着物)に用いられるのでどれも絹織物だと思いがちですが,「小千谷ちぢみ」は麻織物,「久留米がすり」は綿織物です。また染色の代表的な技法である「友禅」とは,江戸時代の京都でこの技法を完成させた宮崎友禅斉という人物の名に由来します。京都の「京友禅」や,石川県の「加賀友禅」が有名で,ほかにも「東京手描友禅」「名古屋友禅」というのもあります。

 

次に「陶磁器」と呼ばれる焼き物ですが,「陶器」と「磁器」の違いは知っていますか?山から採掘した粘土を乾燥させたものを材料とするのが「陶器」で,岩石を砕いた粉末からつくった粘土を材料とするものが「磁器」です(「磁器」は弓ではじいたときに「チン」と高い音がします)。16世紀末に朝鮮から日本にわたった(強制的に連れてこられた)職人によって始められた佐賀県の「有田焼」や山口県の「萩焼」が特によく出題されますが,このほかにも「せともの」の由来となった愛知県の「瀬戸焼」なども有名です。

 

木をくり抜いてつくった型に,漆の木から採取した樹液を何層にも塗り重ねてつくられるのが漆器です。漆や漆器のことを英語で「japan(ジャパン)」ということもあるほど,日本を代表する伝統工芸となっています。「漆の木にふれると肌がかぶれる」という話を聞いたことがありませんか?これは漆にふくまれる「ウルシオール」という成分に対するアレルギー反応で,実はマンゴーの木もウルシ科なので同じようにアレルギー反応を起こす人もいるのだそうです。

 

さて,伝統工業について学習する中で,その問題点として「後継者が不足し,高齢化が進んでいること」「原材料の多くを輸入に頼っていること」などについて学習したと思います。例えば,漆に関して見てみると,年間の国内生産量はわずか1000㎏ほどで,消費量の約98%は中国などからの輸入でまかなわれています。しかも,国内生産量の約6割は岩手県二戸市浄法寺町に住む約20人の「掻き手」(樹液を集める人)が採取しているのです。

 

そして,さらに驚くべきことは,この掻き手さんたちが漆を採取するのに用いる漆掻きの道具をつくれる職人さんに至っては,青森県田子町(二戸市の隣町です)に住む鍛冶屋さんただ一人しかいないのだそうです(現在はお弟子さんが修行中とのこと)。

 

漆は酸やアルカリにも強く,素材が腐るのを防ぐ働きがあります。昔の人たちは,こうした漆の効用とその美しさを生かし,「輪島塗」「会津塗」「津軽塗」「飛騨春慶塗」などの工芸品をつくり,大切に使ってきました。伝統的工芸品は,一つ一つが手作りなので,生産量も少なく,必然的に価格も高くなりますが,大量生産・大量消費の世の中でこうした技術が失われていくのは実に残念な気がします。

 

受験生の皆さんには,こうした技術がどんどん失われつつある日本の現状を知ると同時に,どんな手を打つことができるのか考えてみてもらいたいと思います。

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