中学入試の社会科の頻出問題の一つに,統計データを用いた出題があります。特に最難関中では,示されたデータから「情報」を読み取る力や,その「情報」を活用する力を問うものが増えています。ここでは,特に近年出題されることが多い統計データを何回かにわたって紹介しながら,入試においてどんな力が問われているのか,日頃の学習ではどんなことに気をつけると良いのかを考えていきましょう。
今回は,2019年の女子学院中や2017年の開成中で出題された「昼夜間人口比率(ちゅうやかんじんこうひりつ)」を紹介します。
昼夜間人口比率は「ある1つの地域における夜間人口100人あたりの昼間人口の比率」と定義されます(ちなみに「夜間人口」は「やかんじんこう」,「昼間人口」は「ちゅうかんじんこう」と読みます)。
ある市の夜間人口が100000人,昼間人口が90000人だとすると,
昼夜間人口比率を求める式は 90000÷100000×100=90 となります。
ところで,夜間人口は「常住人口」とも呼ばれ,その市に住んでいる人(つまり住所をおいている人)の数を単純に調べれば良いのですが,昼間人口はどのように求めているのでしょうか。これは,通勤や通学のためにその市から出ていく人口(流出人口)を引いて,逆にその市に入ってくる人口(流入人口)を足すことで求めます。
つまり 昼間人口=夜間人口(常住人口)-流出人口+流入人口 ということです。
通勤先や通学先は,5年に1度総務省が行う国勢調査のときに調べていて,この結果をもとに計算されています。ですから,観光や買い物などの目的で移動している人は含んでいません。
さて,この昼夜間人口比率からどんなことが分かるのでしょうか。次に,関東地方1都6県のデータを示しますので,考えてみてください。
都県名 |
昼間人口(千人) |
夜間人口(千人) |
昼夜間人口比率 |
茨城 |
2843 |
2917 |
97.5 |
栃木 |
1955 |
1974 |
99.0 |
群馬 |
1970 |
1973 |
99.8 |
埼玉 |
6456 |
7267 |
88.9 |
千葉 |
5582 |
6223 |
89.7 |
東京 |
15920 |
13515 |
117.8 |
神奈川 |
8323 |
9126 |
91.2 |
昼夜間人口比率が100を超えるのは東京都だけで117.8となっています。残りの6県はすべて100を下回りますが,栃木や群馬はほぼ100近いのに対して,埼玉や千葉は90を下回っており,神奈川も90に近い数字です。こうして比べると,埼玉・千葉・神奈川からは県外へ通勤・通学している人が多く,東京には通勤・通学のために他県からやってくる人が多いということが分かります。もちろん,東京都から神奈川県へ通勤している人もいるでしょうし,千葉県から(東京都ではなく)茨城県へ通学している人もいるでしょう。ただ,全体的に見た場合は上に述べたような傾向が強いということなのです。大都市の近郊にあり,大都市へ通勤・通学する人の居住地となっているところをベッドタウンと呼びますが,こうした性格が強い地域では昼夜間人口比率が低くなります。反対に近郊の地域から多くの通勤・通学者が集まってくる地域は,この数字が大きくなります。
続いて,東京23区といくつかの政令指定都市について見てみます。
地域 |
昼間人口(千人) |
夜間人口(千人) |
昼夜間人口比率 |
東京23区 |
12034 |
9273 |
129.8 |
大阪市 |
3543 |
2691 |
131.7 |
横浜市 |
3416 |
3725 |
91.7 |
名古屋市 |
2590 |
2296 |
112.8 |
札幌市 |
1960 |
1952 |
100.4 |
福岡市 |
1704 |
1539 |
110.8 |
神戸市 |
1572 |
1537 |
102.2 |
川崎市 |
1302 |
1475 |
88.3 |
広島市 |
1211 |
1194 |
101.4 |
さいたま市 |
1176 |
1264 |
93.0 |
仙台市 |
1148 |
1082 |
106.1 |
北九州市 |
984 |
961 |
102.3 |
千葉市 |
952 |
972 |
97.9 |
堺市 |
785 |
839 |
93.6 |
岡山市 |
745 |
719 |
103.6 |
相模原市 |
636 |
721 |
88.3 |
一般的な政令指定都市のイメージは,その地域の経済・文化の中心として発展しており,昼夜間人口比率も100を超えると思われがちですが,横浜市や川崎市,さいたま市などは100以下となっています。同じ傾向が千葉市や相模原市でも見られるので,これは東京のベッドタウンとしての性格の方がより強くなっていると推測されます。次に,横浜市の各区ごとの昼夜間人口比率をあげますので,このことを確認してみましょう。
区 |
昼間人口(人) |
夜間人口(人) |
昼夜間人口比率 |
横浜市西区 |
183315 |
98532 |
186.0 |
横浜市中区 |
239067 |
148312 |
161.2 |
横浜市泉区 |
119946 |
154025 |
77.9 |
横浜市青葉区 |
236079 |
309692 |
76.2 |
やはり,横浜駅やみなとみらい地区がある西区や,神奈川県庁や横浜市役所がある中区では昼間人口の方が多くなっていますが,住宅地が多い郊外にある泉区や青葉区は,夜間人口の方が多くなっています。
以上見てきたように,「人口の流動性という視点から見てその地域がどのような性格を持つのか」をつかむための統計の一つが昼夜間人口比率です。ですから,都道府県や市町村の人口(つまり常住人口)だけでは見えてこない,人びとの生活の特徴をイメージしながら理解していきましょう。
ちなみに,昼間人口は先ほど説明したように「通勤・通学先の住所がどこか」をもとに集計しています。ですから,都合上「昼間」と言っていますが,夜間に通学している人や深夜の仕事のために通勤している人も「昼間人口」にふくまれています。この点を実態に合わせてもっと正確に集計するにはどうすれば良いか,そんなことを考えてみるのも面白いかもしれませんね。