「外(と)にも出よ触るるばかりに春の月」

2020/4/27

エクタス国語科より

こんにちは。大宮校の佐藤です。
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、各地の自治体が不要不急の外出自粛などを呼びかけています。エクタスの授業は4月中お休みになり、みなさまは各学年の課題を自宅で励まれていることと思います。

外出がほとんどできない中で、ふと、「外(と)にも出よ」というフレーズが思い浮かびました。今回は「外(と)にも出よ触るるばかりに春の月」という中村汀女(ていじょ)の俳句をご紹介します。
この俳句の意味は、「外に出てごらんなさい。手を伸ばせば触れられそうなほどの春の月がある」という意味になります。
穏やかな春の夜に浮かぶ、触れんばかりの大きな月。家の中に入る子ども達にも見せてやろうと、母親が呼びかけます。外に飛び出してきた子ども達と一緒に夜空を見上げる、そんな幸せな家族のひとときが描かれています。「春の月」と体言止めで結ぶことで、おぼろげに輝く美しい月にいたく感動した汀女の心情が深く表現されています。
この句は、昭和21年、中村汀女が敗戦間も無い時期に詠まれた句です。長い戦争がやっと終わり、安心感からくる心の弾みが感じ取れます。汀女の長女によると、この句は買出しの帰り、立ち寄った知人宅からの帰り際に見た春月を詠んだと言われています。食料調達のため買い出しに行き、その帰りにハッと息を飲むほど間近に昇ってきた月の大きさに驚き、思わず家の中にいた家族に向けて「外に出よ」と呼びかけたものだといいます。
また、この俳句には表現技法がふんだんに使われ、より深く鑑賞することができます。
上五「外(と)にも出よ」・・呼びかけています。目の前に迫る大きな月に興奮した様子や素直さがあふれています。この美しい月を子ども達にも見せてあげたいと願う、優しい母の表情も感じられます。
中七「触るるばかりに」・・直喩(ちょくゆ)が使われています。つまり、たとえています。「まるで手が届いてしまいそうなほど」と訳すことができます。おぼろげで間近に迫る美しい月が、目に浮かび上がってくるようです。
下五「春の月」・・体言止めが使われており、名詞で結ばれています。言葉が強調され、その後に余韻を残す効果があります。体言止めにすることで、触れんばかりの潤んだ美しい月にいたく感動した汀女の心情が強調されています。

俳句というとても短い言葉の中に、広い情景、作者の心情を読み込むことができますね。
また、現在、外出自粛中でほとんど外に出ることができません。今まで当たり前のように外に出ていたことが懐かしく、貴重なことにさえ感じます。いつか外に出られるようになったら、家の外に見えるもの、人と会うことに感動するかもしれませんね。授業が再開になれば、塾でも先生やクラスの仲間にも会えますね。エクタスの先生方もみなさまに会えることを楽しみしております。

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