本年の御三家等、最難関中学の国語科入試においては、他者へのあたたかい眼差しをテーマにした作品が多数、出題されました。
【2015麻布中】
山本甲士『あたり 魚信』
就職面接より、ぬかるみにはまった勇大の救出を優先した潤平。おばにひきとられ、安定した生活を送るより、離婚し孤独な母の面倒をみることを選択した小学生の勇大。自分のことを差し置いても、他者の痛みに同苦できる優しさが、歳の離れた二人を結びつけた!!
美談ではあります。
しかし、潤平は、就職の面接を蹴ったおかげで、最も大切な生活の糧を得る道を失うことになりました。勇大は、望めば勉強や遊びに専念できる環境を得られるのに、それを敢えて捨てて、幼い一身に母の世話を担います。
自分が同じ立場になったときにこれができるか…と問われると、疑問です。いずれも、できそうでいて、とてもできないことを、ごく普通の感覚で実行に移していることに驚かされます。
【2015武蔵中】
長谷川櫂『和の思想』
異質なもの同士に「間」をとり、その対立をやわらげ、調和させ、共存させる日本の「和」の文化を見直そう。
異なった考えを持った人々との協調、他者への献身…生の基軸は、確固不動の自我から、他者との連帯に移りつつあると言えるかもしれませんね。この現代の潮流を押しとどめることは、きっと難しいのでしょう。
唐突に、慈悲深い自分を演出することには、到底、無理があります。でも、ちょっとした、小さなこだわりやエゴを、思い切って捨ててしまうことはできるかもしれません。それが結果的に、隣の誰かの笑顔を呼ぶのなら、これに過ぎる喜びはないのではないでしょうか。