本年度、開成中の入試問題から。
旧制中学に入学したばかりの次郎。屈折した先輩風を吹かせ、理不尽な因縁をつける、暴虐な上級生たちに対して、真正面から立ち向かう。「不正に屈しなかったという誇り」は、やがて”萎縮する同級生を自分が守らずして、他の誰が守るのか”という義憤に変わる。彼の中で、校長が入学式で語った「慈悲心」が想起された。それは、決して情緒的な優しさではない。「涙」をもってこそ勝ち取りうる、正義と勇気の大精神なのだ。
(下村湖人『次郎物語』による)
今から、八十年あまり前の時代の物語です。
次郎の決意と行動は、口で語るほど簡単ではありませんね。「正しい」とわかっていても、実践に踏み出せないことは、たくさんあります。最後は、わが身が一番かわいいのが、人情の常だからでしょう。だから、「見てみぬふり」を、一概に責めるのも難しいかもしれません。もちろん、社会的不正や生命に関わるレベルのごまかしだけは、放置できませんが。
あえて、自分が泥をかぶることを覚悟して、正義の実現に向け、一歩前に踏み出す。多くのリスクは伴うものの、生涯をこの精神で生きる人には、真正の勇者の誇りが輝きわたるに違いありません。
複雑な葛藤渦巻く現実に完全に埋没しそうになった時や、心が折れそうになった時に、少しでも「次郎」の覚悟を思い出すことができれば、もう一歩、スケールの大きな人間に成長していけるのかもしれませんね。
多くの示唆に富んだ出題でした。