【2014 雙葉中の出題】
大江健三郎『「自分の木」の下で』
子供の頃。山犬から女子生徒を守りきった用務員さんの勇姿に、深く感激、尊敬。そして、「あの人のようになりたい」と。幼い頃の人間的感化力には、はかりしれない力があるのだ!
佐藤洋一郎『食を考える』
“ファーストフード”のもたらすもの。値下げ競争による、デフレ誘引。大量生産による、エネルギー消費と環境汚染。画一化による、地域固有の食文化の喪失。さて、あなたはどう思う?
大江健三郎氏の作品は、幼い子どもの心に与える人間的な感化力の大きさを語っていますね。
人に襲い掛かる危険度の極めて高い山犬の猛威にさらされた女子生徒を学校関係者が目の当たりにしたとき、校庭からは誰もいなくなった。他の生徒たちはもとより、ともすると普段、生徒達を威圧し君臨していたであろう教師達も皆、逃げ隠れてしまった。そんな中、普段は疎まれていた用務員の「コーノさん」が、ただ一人、竹箒をふるって山犬を撃退してくれた。
子どもの無垢で純白な心は、ごまかすことができません。わが身に降りかかる危険を押して人を助けようとする勇気の前には、奇を衒った知識や権威・立場・地位などは見る影もなく粉砕されてしまうと言わねばならないでしょう。「人間として大事なことは何か」…先入観や社会的なしがらみに縛られぬからこそ見透かすことのできる真実が語られているように思われます。
佐藤洋一郎氏の作品では、今日の産業が社会や環境に大きな影響を与える事例が語られていますね。
その是非善悪についてはともかく、あらゆる業態が、それ単独で成立することはありえず、地球的規模による展開を免れない事実を認知しておく必要がありそうです。
子どもが大人の立派な振る舞いに心を動かされて、模範と仰ぎ、その人に近づこうとする。また、現代の産業は、人・社会・環境と密接に連関して営まれている。
一方は忘れられがちな個人と個人の結びつきへの提起であり、他方は社会の有機的結合への注視を促しているといってよいのではないでしょうか。通底するのは、「むすびつき」だと言えそうです。
読者のみなさん。お時間のある方は、本連載①~⑤を再読ください。
2014年度における最難関中学の主要出題テーマ……”絆~となりの「あなた」とつながろう”
「あなた」は、家族や友達、または見知らぬ隣人や人生の先輩かもしれません。そして、自然環境や動物や母なる大地との絆をかみしめることも、きっとあるはずです。さらに、まだ見ぬ、未知なる存在とのつながりを漠然と意識できるのも、人間に生まれた特権でしょう。近年の私たちを襲う自然災害が、「共助」や「縁起」の社会風土を醸成したというべきでしょうか。また、主体的自我を超克して、他者に手をさしのべる感性こそ、学校側が求める真の「選士」の素質の一つといえるかもしれませんね。