【2015雙葉中】
青木玉『なんでもない話』より
さくら餅に使われる塩漬けの桜の葉が栽培されている、伊豆・松崎の光景。幹もなく、根株からいきなり伸びた細い枝が無心に揺れている…産業化され、従順に飼いならされ、桜本来の生気を奪われた姿に、一時、切なき感傷と同情を禁じえなかった。
辺りに群生する桜たちが、一体、何を感じ、何に悩み、何を伝えようとしているのか…声なき声を受け止められる豊かな感受性にあふれた人のみが感知しうる、奥深い生命の鼓動が、確かにそこにはあるようです。
この感性は、生き物への温かい眼差しと言い換えて差し支えないのかもしれませんね。
筑駒中や開成中で語られた、「兄弟愛、優しさ、個の尊重、友情…」。
麻布中で語られた、ごく自然に互いへの献身を貫く若者と少年の心地よき姿。
武蔵中で語られた、異質なもの同士に調和をもたらす「和」の文化。
桜蔭中で語られた、職人の父と娘の櫛挽作りを通した温かな心の通いあい。
女子学院中で語られた、降り積もる雪に向けられた優しい眼差し。
そして、雙葉中で語られる、生あるものへの慈眼。
いずれも、私たちが、どこかに置き忘れてきてしまった、他者への思いやりにあふれた心を照らし出しているように思えます。
2012年より連載の「御三家の哲学」シリーズは、一時、休載いたします。この間、多くの方から予期せぬ反響を頂戴しました。ご愛読に感謝申し上げます。最難関中学の入試に挑む受験生のみなさんに、求められている人材像について思いをめぐらせる糸口の一端をお示しすることができたのであれば、望外の幸せです。