試験時間50分 満点85点
随筆文3問・物語文4問
解答形式 1~2行の枠 字数制限なし
大問1 随筆文 出典は隈研吾(くま・けんご)『ひとの住処』(2020年2月初版)から。
建築家である筆者が、1980年代の建築業界と、高知県檮原(ゆすはら)町での経験とをふりかえった文章です。80年代の建築の世界は、戦場を失った江戸時代の武士によく似ていました。筆者は忙しいバブル期を東京で過ごし、バブル崩壊後は高知県檮原町で仕事を始めます。東京では、仕事に追われていましたが、檮原では違う時間が流れていました。バブルがはじけたタイミングで、檮原に出会えたことは、筆者のその後の人生に大きな意味を持ちました。
問2では、80年代の建築の世界は、戦場を失った武士のどのような点がよく似ていたのかを説明します。
問3では、「東京の現場」と「檮原という場所」では建築家の筆者にとってどのような所だったかそれぞれ説明します。
江戸時代では戦もほとんどなくなり、武士は不要な存在となっても、自分たちの存在意義を正当化しつつ、過去の功績や政治力のおかげで生き延びようとしました。戦後、建築を必要としていた日本も、70年代を過ぎても政治経済は依然として建築主導であり、無理を重ねていきついた先がバブル経済でありました。80年代の建築業界はまさに武士道が支配する、閉じられた息苦しい世界だったようです。東京では、日々の仕事に追われ、作りたいものを作るのではなく、ただこなすだけになっていました。それと比べて、檮原では様々な職人と自由に会話をし、設計段階では思いもしなかったおもしろい仕上げやディテール(細かさ)を実現でき、本当に作りたいものをゆっくりと作っていくことができました。東京オリンピック2020の新国立競技場も、檮原での経験を活かし、デザインされたのかもしれませんね。時代や働く場所が変化したことで、新たな出会いがあり、自身も変わることができる。そんなことを考えさせられる随筆文でした。
大問2 物語文 出典は柚木麻子『終点のあの子』から。
付属中学女子高に内部進学した高校一年生の希代子(きよこ)は、高校でほかの中学から入学してきた朱里(あかり)と同じクラスになりました。希代子は、部活も同じ朱里と急速に親しくなってきます。平気で学校をさぼり、遅刻をするのに、教科によっては成績もよくクラスで注目を集める存在になっている朱里。ある時、希代子は朱里に学校を一緒にさぼらないかと誘われます。一緒についていってしまいますが、途中で断りなんとか学校に戻ります。翌朝、希代子は気まずくなるのですが、朱里は変わらず接してくれました。ある日、二人で絵の具を買いに行きます。朱里は希代子そっちのけで歩き回り、「勿忘草(わすれなぐさ)の青の絵の具」は結局希代子だけが探します。その後、憧れの美術大学生、瑠璃子(るりこ)さんとお茶を飲みながら話しているときも、朱里は絵の具と希代子のことなどどうでもよく、楽しそうに話しているのでした。その夜、希代子はベッドの中で、青い絵の具を何度も握り、凹ませるのでした。
問3では、しゃべりかけてくる朱里の態度のすべてが疑わしくなるとはどういうことか説明します。
問4では、その夜、希代子はベッドの中で、その青い絵の具を何度も握り、凹ませた希代子の気持ちを説明します。
クラスの様々なグループに顔を出すことができるように付き合いが広く、学校をさぼったり遅刻したりしても平気なほど自由奔放である朱里に、希代子は魅力を感じていました。しかし、学校をさぼることを提案されたとき、今まで魅かれていた朱里と二人きりで一日過ごせるのは嬉しいものの、突然学校をさぼることになるため、母親や仲間のことを思うと心の底からは喜べなかったから断ります。希代子は、朱里の誘いを断ってしまったため、翌日朱里が親しいそぶりは見せても朱里の心が離れてしまったのではないかと不安に思ったのです。絵の具を買ったあと、希代子は憧れの瑠璃子さんと朱里を紹介した途端、二人が親密になる様子を見せつけられました。その夜青い絵の具を何度も握り、凹ませたのは、やきもちを焼き、自分は二人とそうした関係にはなれないだろうと寂しさを感じたのですね。
男子校である開成中受験生が、女子中高生の心情を説明する問題は過去にも出題されています。異性の心情をどう読み解くか試される物語文でした。
以上、お読みいただきありがとうございました。今後もさまざまな国語文章に触れ、学習に取り組んでいきましょう。(佐藤)